第6回 エンゲージメント向上施策①組織・経営レベル ― エンゲージメントは「経営の設計」で決まるー
エンゲージメント向上というテーマに対して、「現場のマネジメント改善」や「個人の意識改革」が語られることは多い。しかし、人的資本経営の観点から見たとき、エンゲージメントの水準を最も大きく左右するのは、組織・経営レベルの設計である。
どれほど優れた人材がいても、経営の意思や制度、組織の在り方が噛み合っていなければ、エンゲージメントは高まらない。逆に言えば、経営が明確なメッセージと一貫した仕組みを持つことで、エンゲージメントは組織全体として底上げされていく。
経営メッセージの一貫性と納得感
組織・経営レベルで最も重要なのは、経営メッセージの一貫性である。
ビジョンや中期経営計画が掲げられていても、それが日々の意思決定や評価、現場での運用と結びついていなければ、社員にとっては「きれいな言葉」に過ぎない。
エンゲージメントの高い組織では、
・何を大切にしている会社なのか
・どのような行動が評価されるのか
・なぜその判断がなされたのか
といった点が、経営の言葉と行動を通じて一貫して伝えられている。
社員が「経営の考え方」を理解できているかどうかは、エンゲージメントに大きな影響を与える。
戦略と人材施策の接続
人的資本経営においては、経営戦略と人材施策がどの程度接続されているかが問われる。
成長戦略を掲げながら、その実現に必要な人材像やスキル、役割が曖昧なままでは、社員は自分の立ち位置や期待役割を描くことができない。
エンゲージメントの高い企業では、
・事業戦略と人材ポートフォリオ
・中長期戦略と育成方針
・求める行動と評価基準
が明確につながっている。
自分の仕事が「どこにつながっているのか」が見えることで、社員は組織への貢献を実感しやすくなる。
公正で納得感のある人事制度設計
組織・経営レベルで避けて通れないのが、人事評価・処遇制度の納得感である。
エンゲージメント低下の要因として、評価への不信感や不公平感が挙げられるケースは非常に多い。
重要なのは、人事制度そのものの完成度だけではない。
評価基準が分かりやすく説明されているか、結果について対話が行われているか、改善の余地が示されているかといった、運用面での体験がエンゲージメントを左右する。
人事制度を「管理の仕組み」ではなく、「成長を支援する仕組み」として位置づけ直すことが、人的資本経営における重要なポイントとなる。
組織文化と心理的安全性
エンゲージメント向上には、組織文化の影響も大きい。
意見を言いづらい、失敗を過度に恐れるといった文化が根付いている組織では、社員は本来の力を発揮しにくくなる。
経営レベルで求められるのは、心理的安全性を担保するための姿勢と行動である。
例えば、経営層自らが失敗や課題を率直に語る、現場の声に耳を傾けるといった行動は、組織全体に強いメッセージを発する。
心理的安全性は制度で一朝一夕に作れるものではないが、経営の振る舞いが文化を形づくることは間違いない。
エンゲージメントをKPIとして扱う覚悟
組織・経営レベルでの最大のポイントは、エンゲージメントを「本気で追う指標」として扱う覚悟である。
離職率や業績と同様に、エンゲージメントを経営KPIとして位置づけ、定期的にレビューし、改善を議論する。この姿勢がなければ、人的資本経営は掛け声倒れに終わってしまう。
エンゲージメント向上施策とは、特別な施策を追加することではない。
それは、経営の意思決定や組織運営の在り方を、「人を活かす」という視点で再設計することに他ならない。
次回第7回―エンゲージメントは「日常の体験」で決まるー
