投稿日:2025.05.26 最終更新日:2025.05.26
社員満足度調査が示す組織改善のヒント
~業種別「モチベーションのばらつき」の傾向~
弊社が提供する社員満足度調査(以下、モチベーションサーベイと記載)は、50問程度の標準設問に対して、14万人以上が回答しています。今回は業種という観点で、結果のとらえ方について解説をします。回答データを業種別に集計し、設問ごとにその集計値のばらつき(標準偏差)を算出、設問による業種の特性の影響を見ていきます。
まずばらつきが大きい項目には、「経営陣の変革挑戦姿勢」「経営陣の社内情報収集」「サービス残業」「キャリア・コースの理解」「労働時間・休日・休暇」といった要素が挙げられます。例えば「経営陣の変革挑戦姿勢」や「社内情報収集」におけるばらつきは、業種特性や各企業のビジネスモデルの違いが影響していると考えられます。
カテゴリ | 項目名 | 標準偏差 |
会社の魅力 | 経営陣の変革挑戦姿勢 | 0.212987 |
会社の魅力 | 経営陣の社内情報収集 | 0.203932 |
労働環境 | サービス残業 | 0.202983 |
キャリア展望 | キャリア・コースの理解 | 0.201944 |
労働環境 | 労働時間・休日・休暇 | 0.198395 |
出典:弊社実施モチベーションサーベイ実績から作成
一部の業種では、競争環境やテクノロジーの変化に適応するため、経営陣が革新や変革に積極的であることが求められる一方、例えばインフラ系のように安定性が重視される業種では、必ずしも高い変革意識が優先されるわけではありません。このように業種ごとに求められる経営の姿勢が異なるため、経営陣に対する期待値の違いがサーベイ結果に反映され、ばらつきが大きくなっていると考えられます。同様に、「サービス残業」「労働時間・休日」などの労働環境についても、業種ごとに働く環境・条件により働き方が異なり、ばらつきが生じていることが考えられます。
人事担当者としては、項目の得点の高い低いのみではなく、項目のばらつきの大きさや業種特性や職場環境などを含めて丁寧に分析し結果を読み解き、改善策を検討することが重要です。一般的には、項目の経年比較に注力しがちですが、それだけを見ていては改善を図ることはできません。
一方で、ばらつきが小さい項目には、「働きぶりの認知」「仕事での主体的判断」「頼りになる上司先輩」「成長実感」「やりたい仕事」などが挙げられます。これらは「仕事の魅力」に関連する項目であり、業種にかかわらず従業員が共通して重視する傾向が強いことを示しています。どの業種でも、働く意義や成長実感、信頼できる上司がいることは仕事に対する満足感やモチベーションを高める要因といえるでしょう。
カテゴリ | 項目名 | 標準偏差 |
仕事の魅力 | 働きぶりの認知 | 0.064301 |
仕事の魅力 | 仕事での主体的判断 | 0.067730 |
人間関係 | 頼りになる上司先輩 | 0.075661 |
仕事の魅力 | 現在の仕事での成長実感 | 0.075699 |
仕事の魅力 | やりたい仕事 | 0.077597 |
出典:弊社実施モチベーションサーベイ実績から作成
ばらつきが小さいこれらの項目において、万が一低い評価が見られる場合、それは業種特性ではなく、企業独自の課題が潜んでいる可能性が高いです。人事制度や現場のマネジメント、職場風土に原因があるかもしれません。したがって、これらの項目の評価が低い場合は、速やかに組織改善の手を打つことが求められます。これらが低い時に「一般的に人気が無い業種である」、「業種の中でのポジションがまだまだだから」など、業種特性や企業のなどを言い訳にしてしまうケースも散見されますが、それは誤った解釈かもしれません。
従業員に対するサーベイの結果は、単なる数値ではなく、従業員が抱く職場への期待や、企業が直面する課題の一端を映し出すある種「鏡」のような存在です。従業員の声に耳を傾け、組織の背景や業種特性を踏まえた解釈が求められます。そのためには、数値のみに囚われず、経営陣や管理職が従業員と率直に向き合い、信頼関係を築くことが不可欠です。
人事担当者としても、ばらつきの大小に応じた組織課題を見極め、業種特性や企業のビジネスモデルに沿った改善策を提案する姿勢が重要です。経営陣の視点から組織の方向性を再確認し、点数のみではなくばらつきの分析結果から見えてくる課題を深堀りすることで、持続的な組織の成長を後押ししていくことができるでしょう。
【参考1: トランストラクチャ「モチベーションサーベイ カテゴリーと設問」】
カテゴリ | 主な設問内容 |
総合指標 | 総合的な満足度 |
会社の魅力 | 経営陣関連、企業ブランド、イノベーション、風土 |
目標・指揮 | 上司の指揮、指導 |
人間関係 | 周囲、上司との関係 |
労働環境 | コンプライアンス、労働時間、休日、設備 |
キャリア展望 | キャリアアップ、人材育成 |
評価と処遇 | 人事考課、処遇、福利厚生 |
仕事の魅力 | 仕事での内容、成長実感 |
スキル・配置 | 仕事のレベル、配置、業務量管理 |
【参考2::トランストラクチャ「モチベーションサーベイ業種一覧」】
① 鉱業,採石業,砂利採取業
② 建設業
③ 製造業
④ 電気・ガス・熱供給・水道業
⑤ 情報通信業
⑥ 運輸業,郵便業
⑦ 卸売業,小売業
⑧ 金融業,保険業
⑨ 不動産業,物品賃貸業
⑩ 学術研究,専門・技術サービス業
⑪ 宿泊業,飲食サービス業
⑫ 生活関連サービス業,娯楽業
⑬ 複合サービス事業
⑭ サービス業(他に分類されないもの)