投稿日:2026.04.28 最終更新日:2026.04.28
医療・福祉の生産性13.4%増の「罠」
―人手不足が招く数値上昇の正体とは? ―
目次
要点サマリ
- 法人企業統計調査(年次)と毎月勤労統計調査(年平均・30人以上)をもとに、医療、福祉業の労働生産性(投資効率)と時間生産性(稼働効率)の変化を整理しました
- 2024年は労働生産性が前年比+13.4%、時間生産性が+14.1%と上昇する一方、付加価値は▲4.0%であり、従業員数(▲15.3%)の減少が指標を押し上げる構造がみられます
- そのため、単年度の上昇率を成果と短絡せず、算式の変数(付加価値・従業員数・労働時間)の変化と経年推移を前提に解釈することが重要です
本稿では、生産性指標の解釈における留意点を具体例で示すため、医療、福祉業を取り上げます。
同業種は労働集約的な性格を持ち、人員規模や労働時間の変化が指標に反映されやすいため、分母要因を踏まえた読み解きの論点が現れやすいと考えられます。
データ解説1:人数ベースでみる生産性 ― 投資効率の視点
【図表1:労働生産性の推移(法人企業統計・年次)】

出所:財務省「法人企業統計調査(年次)」(金融業・保険業を除く全規模法人)
分析コメント(人数ベース)
医療、福祉業の労働生産性は、2023年の3,853,308円から2024年には4,370,361円へ上昇し、前年比13.4%の増加となりました。全産業平均の上昇率(5.7%)と比べても高い伸びです。
一方で、付加価値は6,811,574百万円から6,541,464百万円へ減少しており、従業員数は1,767,721人から1,496,779人へと約15%減少しています。このため、労働生産性の上昇は、付加価値の増加による押し上げというよりも、従業員数の減少による影響を強く受けている構造と読み取れます。労働生産性は投資効率を把握する上で有用ですが、本ケースでは分母変化が大きい点が解釈上の前提となります。
データ解説2:時間ベースでみる生産性 ― 稼働効率の視点
【図表2:時間当たり生産性(時間生産性)と総労働時間(法人企業統計 × 毎月勤労統計)】

出所:財務省「法人企業統計調査(年次)」、厚生労働省「毎月勤労統計調査(年平均・30人以上)」
注記:時間当たり生産性は法人企業統計の「付加価値」と毎月勤労統計の「労働時間」を組み合わせた概念指標であり、自社モニタリング用として位置づけています。算出式は 付加価値 ÷(従業員数 × 月平均労働時間)としています。
分析コメント(時間ベース)
時間生産性は、2023年の27,943円から2024年には31,877円へ上昇し、前年比14.1%の増加となりました。全産業平均の伸び率(6.4%)を上回っています。
月平均労働時間は137.9時間から137.1時間へ小幅な減少にとどまり、労働時間量は大きくは変化していません。従業員数の減少幅が大きいことを踏まえると、時間生産性の上昇は労働時間短縮の効果というよりも、人員規模の変化を主因として生じている解釈が妥当と言えるでしょう。
人事施策への活用例
医療、福祉業界は労働市場の縮小の中で人材確保が論点になりやすい分野ですが、今回のデータでは付加価値が減少する中で従業員数が大きく減少し、生産性指標が急上昇するという構造が確認されます。したがって賃上げや要員配置の判断では、単年の生産性上昇を前提に置かず、分母(人員規模・労働時間)の変化を含む背景条件を明確にした上で意思決定に接続することが求められます。例えば賃上げについては、労働生産性の上昇をもって一律の原資増と解釈するのではなく、人員規模の変化に依存した上昇である可能性を織り込んだ上で、職種別の充足状況や採用難度に応じた配分設計とすることが現実的です。
まとめ
労働生産性および時間生産性は、労働市場の縮小が進む中で重要なKPIです。
一方で、両指標は算式上、付加価値だけでなく従業員数や労働時間といった分母の変化に強く影響を受けます。
そのため、単独・単年の数値のみで状況を判断するのではなく、算式の各要素がどのように変化した結果として数値が形成されているのかを確認し、経年での推移として捉えることが、生産性指標を読み解く上での基本的な前提となります。
このような特徴を踏まえ、経営にとっては、生産性指標を短期的な成果指標として扱うのではなく、事業構造や人員制約の変化の把握とあわせて取り扱う指標として位置づけることが重要です。
以上