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第4回:労働力制約社会において、人事は「人材価値を最大化する設計者」となる

第1回で整理した5つのトレンドの中でも、日本企業にとって避けて通れない現実が「労働力制約社会」の到来である。人口減少と高齢化が進むなかで、「必要な時に、必要なだけ、人材を採用できる」という前提は、もはや成立しない社会環境に入った。本稿では、この現実が企業経営、とりわけ人事の役割にどのような意味を持つのかを考えていきたい。

これまで多くの企業は、「不足した人材は採用で補う」という発想を基本としてきた。人が足りなければ募集を強化し、広告を増やし、魅力的な条件を提示することで母集団を確保する。しかし、少子化が進み、同時に企業間の人材争奪戦が激化する中で、この従来モデルが通用しにくくなっている。単に“採れる会社”と“採れない会社”に二極化していくのではなく、「そもそも市場全体に人がいない」という構造的問題に直面しているのである。

この環境下で問われるのは、「どう人を集めるか」ではなく、「限られた人材で、どう最大の価値を生むか」という根本的な問いである。つまり、人材を“潤沢なリソース”として扱う時代は完全に終わり、人材は“極めて貴重な戦略資源”であることを前提に経営を設計しなければならない。ここにこそ、人事が経営の中核機能へと押し上げられる必然性がある。では、この現実の中で、人事は何を担うべきなのか。

労働力制約社会において、人事が果たすべき役割は、「人を大切にしよう」と単に理念を掲げることではなく、“人材が最大の価値を発揮できる仕組みをつくり、それを実際に機能させ続けること”である。そのために、人事が具体的に手を入れるべき対象は、少なくとも次の三領域に整理できる。

第一に、「限られた人材で最大の価値を生むための“仕事の設計”を見直す」ことである。単に「もっと生産性を上げよう」と現場に求めるのではなく、“今の仕事の設計そのものが最適か”を問い直す必要がある。業務プロセスを棚卸しし、AIやテクノロジーに置き換えられる領域を明確にすること。人がやるべき仕事とAIが担う仕事の役割分担を設計し直すこと。さらに、一人ひとりの強みが最も生きる配置を見極めること。そして、マネージャーの役割を“プレイヤーの延長”から、“人材の価値創出を指揮する役割”へと再定義すること。
ここで人事は、「制度担当」ではなく、「業務設計と役割設計のパートナー」へと進化することが求められる。
第二に、「人材を“減らさない組織”をつくるため、Employee Experience(従業員体験)を経営テーマとして扱う」ことである。

離職防止は、精神論や慰留策で語る時代ではない。“辞めないようにする”のではなく、「ここで働く理由」「ここで働き続ける意味」を設計することである。離職理由を感覚ではなくデータとして把握し、ハイパフォーマーが辞めない要因を分析すること。キャリアの見通しや成長実感を得られる仕組みを整備すること。マネジメントの質を測定し、改善のための教育や仕組みを設けること。そして、心理的安全性をサーベイや対話を通じて継続的に確認し、改善を回すこと。

ここで人事は、「採用担当」から、「働く体験の設計者」へと役割を拡張していく。
第三に、「いまいる人材の“未来価値”を高めるため、リスキリングを“戦略投資”として扱う」ことである。

「足りないから採る」だけでは成り立たない。必要なのは、「いまいる人材を未来の戦力へと進化させる計画」である。将来必要となるスキルを中長期視点で見極め、職種別・層別にリスキリングのロードマップを描くこと。現場で活用されることを前提とした実践型の学習設計を行うこと。そして、「学んだ人が損をしない」ように評価制度やキャリアにきちんと結びつけること。

これは“教育支援”ではない。明確な経営戦略であり、「未来への再投資」である。
もちろん、これらはいずれも簡単ではない。生産性向上と人の幸せの関係、教育投資の回収可能性、学んでも辞めてしまうリスク――どれも現実的な課題である。しかし、その困難さを理由に何も変えないという選択は、「人が足りないからできない」という言葉で、未来の成長を放棄することと同義である。

重要なのは、労働力制約を“制約条件”として受け身に扱うのではなく、“前提条件として設計し直す姿勢”である。
労働力制約社会は、人事の役割を二重に重くする。
第一に、「人材確保」という競争の最前線に人事が立たされるという意味で。
第二に、「限られた人材の価値を最大化する組織を設計する」という、より戦略的かつ創造的な役割を担うという意味である。人事がこの役割を主体的に引き受けた企業だけが、厳しい環境の中でも成長し続けることができる。
労働力制約社会の到来は、人事を単なる管理部門ではなく、「人材価値の最大化を担う設計者」へと進化させる。採用だけに頼らず、既存人材の力を最大化し、組織の学習能力を高め、働く意味と魅力をつくり出す――そうした人事のあり方こそが、これからの企業の競争力を決める。

次回は、「不確実性(VUCA)の時代」と「ポスト真実社会」という、より不安定で複雑な環境変化を前提に、人事が組織の“信頼”と“意思決定力”をどう支えていくのかについて考えていきたい。