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HR DATA

コロナ以降の賃金生産性と平均賃金の推移
~大手と中小で賃金生産性の回復に大きな差~

 前回の賃金生産性の記事(賃金生産性~人的資本の投資価値を把握する有効な指標~ )では、2011年から10年間の賃金生産性と平均賃金の推移について、いくつかの業種を取り上げながら解説しました。今回は資本金規模別の直近5年間の賃金生産性と平均賃金の推移を見ていき、コロナ禍以降の傾向と人事施策について述べていきます。

 まず、国内全体の傾向を見ていきましょう。図表1は、全産業(金融保険業除く)の賃金生産性と平均賃金の推移を表しています。賃金生産性の推移は2019年から2020年にかけて4.0ポイント低下したものの、その後毎年平均3.1ポイント上昇しています。平均賃金の推移は2019年から2023年にかけて安定しており、毎年平均0.8ポイント上昇しています。

【図表1 業種:全産業(金融保険業除く)/資本金規模:全規模の過去5年間の賃金生産性と平均賃金の推移】

出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工
注1)賃金生産性=付加価値÷人件費
注2)2019年を100とした場合の5年間の推移

 賃金生産性は、2019年から2020年にかけて一時的に低下したものの、その後は成長基調にあり、平均賃金は同じく2019年から2020年にかけて微減しましたが、数値は安定しており緩やかな上昇傾向にあることが分かります。
 これを踏まえ、次に大企業と中小企業の傾向をそれぞれ見ていきましょう。図表2は、全産業(金融保険業除く)/10億円以上規模の賃金生産性と平均賃金の推移を表しています。賃金生産性の推移は、2019年から2020年にかけて4.8ポイント低下したものの、その後毎年平均6.2ポイント上昇しています。平均賃金の推移は、2020年から2021年までは2019年の水準を下回っていましたが、2022年以降は毎年平均3.4ポイント上昇しています。2019年を起点とした賃金生産性の上昇率は毎年平均3.5ポイント、平均賃金は毎年平均1.6ポイントで、両者には約2.2倍の差があります。

【図表2 業種:全産業(金融保険業除く)/資本金規模:10億円以上の過去5年間の賃金生産性と平均賃金の推移】

出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工
注1)賃金生産性=付加価値÷人件費
注2)2019年を100とした場合の5年間の推移

 図表3は、全産業(金融保険業を除く)/1億円未満規模の賃金生産性と平均賃金の推移を表しています。中小企業においては、賃金生産性については、2019年から2020年にかけて4.0ポイント低下し、2023年に2019年とほぼ同水準まで回復しました。平均賃金の推移は国内全体(図表1)の傾向に近しく、毎年平均1.0ポイント上昇しています。また、国内全体(図表1)や大企業(図表2)の傾向と比較すると、賃金生産性の回復のスピードが非常に遅いと言えます。

【図表3 業種:全産業(金融保険業除く)/規模:1億円未満の過去5年間の賃金生産性と平均賃金の推移】

出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工
注1)賃金生産性=付加価値÷人件費
注2)2019年を100とした場合の5年間の推移

 総括すると、賃金生産性の推移は2019年から2020年にどの資本金規模においても一時的に低下したものの、その後は回復基調にあり、資本金規模が大きい企業ほど上昇率が高い傾向にありました。平均賃金の推移は資本金規模問わず安定しており、上昇率も緩やかであると言えます。平均賃金と賃金生産性の相関関係に注目すると、大企業は平均賃金の上昇に伴い賃金生産性も上昇しているのに対し、中小企業は平均賃金の上昇に対して賃金生産性が連動しない傾向にあります。

 中小企業は大企業と比較すると経営資源が限定的であることから、付加価値を創出する人材へより多くの還元を行うことや、付加価値創出にダイレクトに影響する人材開発等の実施が求められます。また、場合によっては付加価値の創出に寄与しない従業員への配分を抑えたり雇用調整を実施したりする等、企業の実態に即した施策を講じる必要があります。
以上