人的資本ROIと離職率の関係性 ~投資効率が改善した製造業、低下した情報通信業~ |HRデータ解説|㈱トランストラクチャ

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人的資本ROIと離職率の関係性
~投資効率が改善した製造業、低下した情報通信業~

要点サマリ

  • 経済産業省「企業活動基本調査」、厚生労働省「賃金構造統計調査」をもとに、人的資本ROIと離職率の関係性について解説します。
  • 2019~2023年にかけて、製造業では離職率が横ばいのまま人的資本ROIが上昇し、投資効率が改善されている一方、情報通信業では2022年以降で人的資本ROIが低下、離職率は大きく上昇しており、人的投資が機能していなかった可能性があります。
  • 業界平均や自社過去推移との比較により、自社の立ち位置を客観的に評価し、人的投資が持続的な成長に繋がっているか検証することが重要です。

企業が持続的に成長し、競争力を維持していく上では、「人的資本経営」の視点から、従業員の能力開発やエンゲージメント向上、そして「人材の定着」を図ることが不可欠です。今回は、人的資本ROIと離職率の関係性について解説します。

データ解説1:人的資本ROIと離職率(全産業平均2023年度)

人的資本ROIは、企業が人材への投資によって、どれだけの利益を得ているかを示す指標であり、以下の計算式で算出されます。

人的資本ROI = 「{収益-(コスト-人件費)}÷人件費-1」

離職率は、一般的には一定期間の退職者数を期首の従業員数等で割って算出しますが、ここでは厚生労働省の「雇用動向調査」による定義を用います。

離職率 = 離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100(%)

図表1のように、横軸に人的資本ROI、縦軸に離職率を設定し、全産業の平均値(48.3,15.4)を交点に4象限を設定します。

【図表1:人的資本ROIと離職率(全産業平均2023年度)】

出典: 経済産業省「企業活動基本調査」(2024年調査、2025年公開)、厚生労働省「雇用動向調査」(2024年調査、2025年公開)に基づき作成

  • 第1象限は、投資効率は高く離職率は低い、理想的な状況です。従業員への投資がリターンを生む、持続的な成長が期待できます。
  • 第2象限は、投資効率と離職率のいずれも低い状況です。安定はしているが、生産性向上やスキル開発などに改善の余地がありそうです。
  • 第3象限は、投資効率は低く離職率は高い、危機的状況と言えます。業務改善、環境整備などの抜本的な対策に取り組む必要がありそうです。
  • 第4象限は、投資効率と離職率のいずれも高い状況です。スキルやノウハウの流出リスクがあり、投資効果の継続性に課題がありそうです。

さらに、単年度の数字だけなく経年推移を見ることで、施策の方向性が合っているか把握することができます。 

データ解説2:人的資本ROIと離職率(製造業・情報通信業2019-2023)

【図表2:業種別人的資本ROI(製造業、情報通信業)】
HRデータ解説「人的資本ROIと離職率の関係性」図表2

出典:経済産業省「企業活動基本調査」(2020~2024年調査、2021~2025年公開)、厚生労働省「雇用動向調査(年次別推移)」(2024年調査、2025年公開)に基づき作成

図表2では、製造業と情報通信業の数値を5年分プロットしています。2019~2023年にかけて、製造業では離職率が横ばいのまま人的資本ROIが上昇し、投資効率が改善されている一方、情報通信業では2022年以降で人的資本ROIが低下、離職率は大きく上昇しており、人的投資が機能していなかった可能性があります。

人事施策への活用例

図1・図2のようなマトリクスを用いて、自社の過去データや統計値と比較をすると、自社の人的投資の効果を検証することができます。人的資本ROIや離職率の数値は一時的に変動することもあるため、単年度の結果だけで判断せず、中長期的なトレンドを追いながらPDCAサイクルを回すことが重要です。

以上

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