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HR DATA

産業別に見る日本の労働生産性
~2019~2023推移と改善ポイントを解説~

 日本の労働人口は少子高齢化などで減少が進み、さらに働き方の多様化により労働力の確保が難しくなっています。この状況で企業が利益を効率的に生み出すためには、労働生産性が重要な指標となります。

 労働生産性には、生産量など物理的実物を利益として見る物的労働生産性と、金銭的な価値を利益として見る付加価値労働生産性(※1)があります。本稿では、「従業員1人あたり、どれだけの付加価値(利益)(※2)を生み出せたか」を表す付加価値労働生産性を取り上げます。

 2023年1月のHRデータ解説「生産性を高める積極的な設備投資のすすめ~労働装備率と労働生産性~」では、2014年度を起点に2018年度までの付加価値労働生産性と労働装備率(※3)の推移を見てきましたが、今回は2019年度を起点に2023年度までの推移を見ていきます。
※1 付加価値労働生産性=付加価値÷従業員数
※2 付加価値とは、事業活動により独自に生み出された価値のこと。付加価値=人件費+支払利息+動産・不動産賃借料+租税公課+営業利益。
※3 労働装備率=有形固定資産÷人員数。企業の機械や装備がどの程度充実しているのかを示す指標

 図表1は、労働生産性・人員数(従業員数)・労働装備率が2019年度を起点に2023年度までどう推移したかを表しています。まず全産業で確認すると、直近の2023年度は労働生産性・人員数はともにコロナ禍以前の2019年度の水準まで回復してきています。労働装備率は一時的に上昇していますが、人員数が減少し一人当たりの有形固定資産の数値が上がっただけで、現在はコロナ禍以前と同等に落ち着いてきています。

【図表1:全産業の労働生産性と人員数、労働装備率】
出所 「法人企業統計調査」、財務省(2023)より作成

 産業別に見てみましょう。運輸業郵便業(図2)は、昨今働き手の不足や労働時間の制限などで業界発展に大きな影響が出ている産業です。コロナ禍では、運輸物量の減少から利益が落ち込み、労働生産性も大きく下がりましたが、現在は回復傾向にあります。労働装備率の上昇は、先述同様に人員数の減少による一時的なものであると考えます。

【図表2:運輸業郵便業の労働生産性と人員数、労働装備率】
出所 「法人企業統計調査」、財務省(2023)より作成

 医療福祉業(図3)は人員数が増え続け、労働生産性も上昇が続いています。さらに労働装備率もコロナ禍を契機に急伸しており、一定の機械化が進んだと考えられます。

 こうした産業別の差は、業界の構造的な要因やコロナ禍の影響度の違いなどが背景にあると思われます。

【図表3:医療福祉業の労働生産性と人員数、労働装備率】
出所 「法人企業統計調査」、財務省(2023)より作成

 労働生産性を定期的かつ経年でモニタリングすることは、自社の状況を把握するうえで重要です。その際は、同業・同規模企業の数値と比較し、自社の状況を相対的に評価することが望ましいでしょう。また、他のデータとの相関を分析することで、より深いインサイトを得ることができます。

 例えば、従業員の退職率や労働分配率などの指標と合わせて分析すると、新たな気付きがあるかもしれません。さらに、一人当たりだけでなく、1時間当たりの付加価値も確認することで、長時間労働による影響を見逃しにくくなります。労働生産性が高いからといって安心するのではなく、その背景を多角的に検証し、継続的な改善や施策を検討することが大切です。