メディア・講演等
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- トランストラクチャの
「人事アナリシスレポートR」
週刊東洋経済 (6424号)
/東洋経済新報社 (2012.10)
©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.
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代表取締役 CEO
シニアパートナー
一橋大学商学部卒業。米国ジョージワシントン大学経営大学院修了。
プライスウォーターハウスコンサルタント社に入社し、国内外の大手企業に対して、人材開発、業務改善、IT戦略立案等のコンサルティングプロジェクトに関与。
その後、トーマツコンサルティング株式会社にて、多くの組織・人事に関するコンサルティングを行った後、当社、取締役シニアパートナーを経て現職。人事分析、人事制度設計、他幅広い分野の人事コンサルティングに多数関与。
人事の進化に貢献したい
代表取締役CEOシニアパートナー
2025.01.07
正月休みに昨年の社会の動きを振り返ってみて、改めて、AI進化が凄まじいスピードで進んでいる事をつくづく感じている。この勢いに乗って、我々は、気づかぬうちに、とんでもないところまでいってしまうのではないかと心配になる。昨年、ノーベル経済学賞を受賞したMITのダロン・アセモグル教授は言う。 「人間がそれまで担っていた仕事にAIが取って代わる『労働代替型』の技術進歩ではなく、AIが労働生産性を高める方向で進歩していく『労働補完型』を目指し、人間の主体性(Agency)を奪ってはならない。」 AIは、様々な情報をインプットすれば、その条件の中でとりあえず、“最適な”ソリューションを提供してくれる大変頼もしい友人のようであるが、その回答を我々が鵜呑みにして、自ら考えることや選択することをひとたび止めてしまえば、おそらく映画『マトリックス』やジョージ・オーウェルの『1984年』のように、自らの意思で選択する力を奪われた世界に埋没していくだろう。我々は仕事における主体性を放棄してはいけないのだ。 「他社は?」コンサルティングを行っている日常でよく交わされる言葉だ。外部の状況を可能な限り十分に把握したうえで、自社にとっての最適解を導き出すことはとても重要だ。キャリアパス、給与水準、人事評価、人材育成の制度等、人事上の様々な仕組みを設計する際には、内外の情報や過去の知見を構造的に整理し、クライアント企業の意思決定を客観的にサポートするのがコンサルタントの役目でもある。クライアント企業の意思決定がその企業の属性から見て常識的な範囲のものであるのか把握したい時や、社内の過激で偏った意見を排除する際にも外部情報を有効に活用すべきだと思う。しかし当然ながら、自社と同様な他社の仕組みをそのまま取り入れればうまくいくものでもない。 「自社は?」むしろ、自社を知ることのほうが重要かもしれない。同じ業種や組織規模であっても、その企業の目指しているゴールやその企業を構成する人々のキャラクター、さらには創業以来培われてきた社風はそれぞれ固有のものであり、むしろそうした様々な内部情報を正確に認識し、収集した外部情報とともに机の上に並べ、何を重視すべきか考え、想定しうる選択肢を絞り、吟味し、意思決定を行うことが肝要だ。 未来は不確実なものである。将来、想定していた前提とは異なる現実が生じることも少なくない。その結果、よかれと思って作った仕組みは現実と適合しなくなり、見直しを求められる。それは当然のことであり、一度作ったら、将来にわたってメンテナンスをせずに使える仕組みなどはなく、移り行く現実に合わせて、チューンナップを繰り返し、最適化を図っていくものだ。 我々の人事コンサルティング業界も、アセモグル教授の言葉を借りて言えば、労働生産性を高める方向で進歩していく『労働補完型』のAIの活用は強力に追求していくべきである一方、収集した外部の情報や組織内部の状況を構造化し、言語化してクライアントと共に主体的に考え抜いて最適なシナリオやソリューションを生み出すことは、決してAIに任せてはならないものだ。 これは人事コンサル業界に限った話ではなく、どんな業界でも当てはまる。人間にとって「主体性」こそ、本質であり、「主体性」のない組織や、人間が「主体性」を持たない社会の中で生きることに、我々は何の価値も感じられないだろう。 一見、悩むことなく楽に見えるかもしれない「マトリックス」や「ビッグブラザー」に従う社会ではなく、日々移り行く現実と常に向き合い、我々自らが考え、意思決定をする健全な社会であり続けられるかどうかは、我々自身が、AI発展に対して、いかに主体性に向き合っていくかどうかにかかっている。AIの有用性に存分に享受しつつも、我々は、絶えずそれを自身に問いかけていかねばならない。
2024.08.23
これからの時代、企業の成長エンジンは、お金やモノではなくヒトである。ヒトを資本と捉え、ヒトに投資し、ヒトが価値を創出することで、企業が成長し得るというのが人的資本経営だ。ヒトをコストとして捉え、生産性を高めるため、できるだけ人件費を削減するという発想から転換しないと、企業は成長どころか生き残りさえ難しいという時代になった。 そのため、各企業はこぞって、人材の育成・成長を強化する方針、優秀な人材を獲得するための施策、従業員のキャリア開発支援、社員モチベーションの向上、ワークライフバランスの重視、等々、人材に関する方針や施策を経営計画で掲げている。 中期経営計画や上場企業の統合レポートを見ても、あきらかに人事や人材に関する方針のウエイトが高まってきている。 こうした方針や施策を推進していくには、それぞれの企業のビジョンや経営戦略と連動させていくことが重要なのだが、正直なところ、経営戦略と連動したかたちで、どのような人材(WHO)を獲得していくのか、どのように(HOW)人材を育成していくのか、明確で具体的な施策に展開されている企業は、必ずしも多くない。 必要なヒトを確保し、育て、社員のエンゲージメントを高めていくといった基本的な方向性は定まっているものの、具体的にどの社員を、どのように育てて、どんな成長を目指すのかについて、社内で共通の認識が確立され、かつ、具体的な施策に展開されているだろうか。また、現有人材の実情や現場感と大きく乖離した理想的な人材像を描き、現場の社員からするとリアルさを感じられない計画になっていないだろうか。 もちろん、過去から長らく、人材の価値向上に着目し、経営戦略と連動し、現実感のある人材戦略を展開している企業もあるのだが、その割合は限られている。 人事部門もこうした状況を十分理解し、これからより解像度の高い人事・人材戦略を描いていこうとしているが、思った通りには順調に進んでいない。どんな施策づくりでもそうだが、総論賛成、各論反対といった状況に直面しているところも少なくない。人事部門が、より具体的な施策を策定しようとする段階では、各部門での微妙な利害や思惑が異なり、基本的な方針としては賛成だが、個々の施策では反対となって、なかなか前に進まないというケースも散見される。 こうした状況を打開する上での、一つの効果的な施策が、現場のリーダー層を巻き込んだ、ワークショップスタイルの施策展開だ。人事部門が施策の策定において、経営との対話に終始するのではなく、現場のリーダー層とともに現状の認識合わせや人事方針を具体化していく方法である。この方法であれば、現場の事業部門にオーナーシップ感が生じ、部門間での相互理解が高まり、さらには、リアルな現場の実態や実力に基づいた施策展開が可能になってくる。 後継人材の育成、人材ポートフォリオの作成、組織文化の醸成など、人事の施策にはそれなりに時間がかかる。一刻もはやく着手しないと、新しいテクノロジーが次々と生まれ、大きく変化する経営環境についていけなくなってしまう。いまや、人事周辺の特定メンバーだけで、人材戦略を策定することには、限界がある。全社的リソースを巻き込んで人材戦略を策定し、ドライブをかけていく必要がある。 ■■無料Webセミナー情報■■ 「人材戦略ワークショップ」~経営陣・現場リーダーを巻き込み人的資本経営を実現する方法~ 日時 2024年8月29日(木) 10:00〜11:00 受付9:45〜 スピーカー 高柳 公一
2024.04.08
AI等、テクノロジーの進化をはじめ、社会の大きな変化に応じ、従来の職業の価値が低下していく可能性について、関心が寄せられている。“将来、なくなる職業ランキング”といった記事さえも、数多く、散見されるようになった。また、数年前から、大手テレビ局の男性アナウンサーの退職が続いている事がニュースにもなっていたが、花形と言われる職業であった、男性アナウンサーであっても、将来は安泰でなく、新たな価値提供の場を求めていかねばならない状況が今、ここで進行している。 外部環境の変化により、今まで、人気ランキングの上位に占めていた職業の価値が低下し、場合によっては、必要性さえもなくなってしまうと言われている事態は、今に始まった事ではなく、過去の時代においても、少なからずあった。その典型的なものは、明治維新後の“武士の廃業”がある。明治になって、封建制度の崩壊と共に、武士の俸禄はどんどん削減されていった。 さらには、“数年分の俸禄を支払うので、武士をやめなさい”という、今でいう早期退職制度のようなものさえ導入され、そうした状況の中で、武士たちは、明治政府に抵抗を示しながら、止むを得ず、新しいキャリアを模索していった。 そうした武士たちの、主たる“転職先”は、官僚や軍人への転身だった。明治政府は、多数の旧武士を官僚や軍隊として受け入れたが、基本的に、能力の高い人を雇うという方針を持っていた。というか、能力の高い人材、実力がある人材しか、雇えなかった。明治政府は、人材も金もない中で、欧米列強と向き合いながら、早急に統治機能高めるためには、古い体制の継続を声高に主張するような人材や、家柄がよかろうとも、仕事のできない人材までを抱えていく意図も余裕もなかった。身分・家柄を問わず実力のある人材を優先的に登用していくしかなかった。 一方、官僚や軍人として、登用されなかった武士たちは、新たな世界へと転身した。その一つは、教育者だった。武士は、読み書きや武道など、多くの知識や技能を持っていたため、教師や道場の指導者になった。今まで身に着けてきた知識やスキルが活用できる他の職種を選んだケースだ。これは、社会が変化する前から、自身で高い教養やスキルを保有していて、それを活かしたキャリアチェンジを行ったケースと言える。明治以上に、目の前で活用されるテクノロジーや知識が、すぐに陳腐化する現代においては、日頃から、専門的領域より、自然科学のような、より広範でベーシックな教養や知識、技術を高めておくことは、より重要な事なのかもしれない。 また、明治時代になると、日本は急速に近代化、工業化が進み、新しい経済機会を求めて、商工業における事業を始める者もいた。今風に言えば、新たに生まれた産業やベンチャー企業で、大きな可能性を求めて、起業をするケースだ。今まで生きてきた中でのなじみのある世界で、生きていくより、いっそ、この機に、新しい世界に飛び込んで、大暴れしてやろう!意気込み、優れた起業家や事業化として、その後の日本社会に貢献した元武士たちも、少なからずいたことだろう。 以上、明治維新における武士の対応は、①新しい時代に即した従来と同様の職種でのバージョンアップ(官僚や軍人への転身)、②自身の保有する能力・スキルの提供者(教育者)、③新時代に生まれた産業、職業へのチャレンジ(新規事業家)という道を選んでいった。明治維新をきっかけとして、武士たちは、本当に目指すべき自身の生き方やキャリアを見つめなおし、新たな道に進んで行ったことで、結果として、強制的ともいえる日本の労働力のシャッフルが行われ、結果、人材の最適配置が進んだ事は、その後、明治日本の躍進の原動力の一つであったことは間違いないであろう。 また、明治政府が、過去のしがらみや温情ではなく、高い能力を持つ人材を官僚や武士として採用することで、その後の欧米列強からの侵略を防げたことを思うに、企業が、これからの時代に求める能力やスキルを明確に再定義し、実力主義の登用を今まで以上に促進することができるか否かが、これからの日本社会の行く末を決めることになるだろう。日経平均株価が、高値を更新し、失われた30年から脱却し、ようやく新しいステージが見え始めた日本経済が、このまま成長軌道に乗っていけるのか、企業にとっても、人材にとっても、このチャレンジは避けられないものだ。