第4回:組織文化という前提条件を読む ―なぜ人は合理的に間違い続けるのか― - 株式会社トランストラクチャ

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第4回:組織文化という前提条件を読む ―なぜ人は合理的に間違い続けるのか―

人事課題を感覚や印象論から切り離し、ポートフォリオ(人材構成)とパフォーマンス(成果)の関係として捉える「PPフレーム」を用いて、組織の状態を可視化する視点を提示してきた。さらに、人件費を経営資源として扱い、その配分を構造的に捉えること、そして意思決定に耐えるための「基準」を持つことの重要性を整理してきた。
しかし、ここで一つの疑問が残る。
「構造は見えた。基準も定義した。それでも、なぜ組織の行動は変わらないのか。」
この違和感こそが、組織風土・文化というテーマに向き合う入口である。
本稿で扱う組織文化は、施策として直接「変えうる」対象ではない。人事を経営の意思決定として成立させるために、「なぜその行動が合理的とみなされているのか」を読み解くための前提条件である。

文化とは「合理性の定義」である

組織風土や文化は、「結局は文化の問題だ」といった形で語られることが多い。しかし、この言葉は便利であるがゆえに、思考停止を招きやすい。重要なのは、文化を原因として片付けることではなく、組織において何が合理的とみなされているのかを問い直すことである。
人は非合理だから問題行動をとるのではない。むしろ、その組織の文脈においては合理的だからこそ、その行動が再生産される。
例えば、挑戦が求められている組織であっても、「失敗すると評価が下がる」という経験が共有されていれば、挑戦しないという選択は合理的となる。また、意思決定のスピードが課題であっても、「最終判断は上位者が持つ」という前提があれば、現場が判断を回避する行動は合理的である。
このように本稿では、組織文化を、何が正しく、何が賢明で、何が避けるべき行動なのかという『合理性の定義』が共有された状態として捉える※1。

見えている構造と、見えていない構造

第1回から第3回までで扱ってきたPPフレームや人件費、基準は、いずれも「見えている構造」である。すなわち、人材構成と成果の関係、それに対する資源配分、そして目指すべき状態とのギャップである。
一方で、文化が扱うのは「見えていない構造」である。なぜその構造が維持され、なぜ変化しないのか。その背後にある行動の合理性を規定している前提である。
組織における行動は、明示された制度や基準だけで決まるわけではない。人は、自らが置かれた文脈の中で出来事を意味づけし、その意味に基づいて行動する傾向がある※2。したがって、制度が意図した通りに機能するとは限らない。制度はあくまで設計であり、その解釈と運用によって現実の行動が形成される。ここに、可視化と現実の間に生じるギャップの本質がある。

文化は意思決定の累積であり、自己強化される

組織文化は、特定の個人の価値観によって突然生まれるものではない。過去の意思決定、評価の運用、責任の取り方、成功体験の共有といった日々の積み重ねが、何が正しい行動であるかを定義していく。
そして一度定義された合理性は、行動を通じて再生産される。成功した意思決定は模倣され、語られ、組織の中で「正しさ」として定着する。このプロセスは循環的であり、文化は自己強化される性質を持つ。
したがって、こうした観点から見ると、文化は単なる結果ではなく、行動と成果を媒介するメカニズムとしても理解できる。文化は原因でもあり、同時に前提でもあるという両義的な性質を持つ※3。

文化を変えるのではなく、合理性を再定義する

この理解を欠いたまま、「文化を変える」という抽象的な目標を掲げても、組織は変わらない。スローガンや行動指針は増えるが、現場の行動は変わらないという状況に陥る。
人事に求められるのは、文化を直接操作することではない。文化を生み出している合理性の構造を特定し、その前提を揺るがす意思決定を設計することである。
評価制度、権限配分、意思決定プロセス、マネジメントの振る舞い。これらを横断的に見直し、「どの行動が合理的とみなされているのか」を変える必要がある。
何が評価され、何が見過ごされ、何が黙認されているのか。この問いに対する答えが変わったとき、行動が変わり、その結果として文化は変化する。文化は直接変えるものではない。しかし、間接的に変わらざるを得ない状況は設計できる。こうした見直しは、組織の中で共有されている意味づけの枠組みに働きかける試みでもある※4。

人事の役割は「見えない前提」を言語化すること

PPフレームによる可視化は、あくまで出発点である。ポートフォリオとパフォーマンスの関係を整理することで、どこに歪みがあるかは見える。しかし、それだけでは意思決定には至らない。人事の役割は、その歪みがなぜ生じているのかを、行動の合理性という観点から解釈し、経営が判断できる言葉へと翻訳することである。言い換えれば、人事は「見えている構造」と「見えていない構造」を接続する役割を担う。
組織文化とは、経営が下してきた意思決定の累積である。文化を語るとは、過去の意思決定を問い直し、未来の意思決定を設計することである。

文化が変わらざるを得ない意思決定を設計する

人事が担うべきは、文化を語ることではない。文化を生み出している前提条件を構造として捉え、経営の意思決定に接続することである。
「労務管理」や「人事管理」にとどまるのではなく、経営の意思決定を支えるパートナーとして機能する。そのためには、可視化された数値の背後にある合理性を読み解き、それを変えるための具体的な打ち手を提示する必要がある。
文化は結果である。しかし同時に、未来の行動を規定する前提でもある。この循環を理解し、意思決定として介入できるかどうかが、人事の成熟度を分けるのである。

※1:Schein, E. H. (2010). Organizational Culture and Leadership (4th ed.). Jossey-Bass.
※2:Weick, K. E. (1995). Sensemaking in Organizations. Sage Publications.
※3:Denison, D. R. (1996). “What is the Difference Between Organizational Culture and Organizational Climate?” Academy of Management Review, 21(3), 619–654.
※4:Gioia, D. A., Corley, K. G., & Hamilton, A. L. (2013). “Seeking Qualitative Rigor in Inductive Research.” Organizational Research Methods, 16(1), 15–31.