第1回:人事課題を構造的に捉える~感覚論から経営の意思決定へ~ - 株式会社トランストラクチャ

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第1回:人事課題を構造的に捉える~感覚論から経営の意思決定へ~

「自社の人員構成は、現在の経営戦略に本当に適していると言えるだろうか。」
そんな問いに経営や人事の担当者は自信をもってイエスと答えられるのであろうか。

多くの企業は人手不足、賃上げ圧力、離職率の上昇、エンゲージメント低下など、複合的な課題に直面している。人的課題はもはや一過性の現象ではなく、企業経営の根幹を揺るがす構造的な問題として顕在化している。とりわけ中堅・中小企業においては、十分な体力がないこともあり、日々のオペレーションや突発対応に追われ、人的資本を戦略的に捉え直す余力を確保できていないケースが少なくない。

人的資本が企業価値の源泉であるという認識自体は、すでに広く共有されている。しかしながら、「人をどのように把握し、どのように投資し、どのように成果へ結びつけるのか」という問いに、明確な構造と共通言語をもって答えられている企業は、依然として少数派である。

感覚的判断が組織の誤診を招く

経営者が抱く「最近、かつての勢いがない、職場に元気がない」といった感覚は、重要な兆候ではある。しかし、それだけで的確な打ち手を導くことは難しい。
実際、若手社員の離職増加を「報酬水準の問題」と短絡的に捉え、一律昇給を実施したものの改善に至らず、後に調査を行った結果、真因が「上司との関係性」や「将来のキャリア視界の不透明さ」にあったという事例は珍しくない。感覚だけに頼った人事判断は、組織の誤診につながりかねないのである。

感覚的判断が誤りだと言いたいわけではない。正確に言えば、感覚的判断だけでは誤診に気づかないということである。経営者の感覚は、課題の存在を知らせる「センサー」として重要である。ただし、その感覚を意思決定に耐える判断へと昇華させるためには、測定や構造化による検証が不可欠となる。

PPフレーム――人事課題を構造的に捉える視点

トランストラクチャでは人事課題を整理・可視化するための基本的な枠組みとして「PPフレーム」を提示している。
PPとは、Portfolio(ポートフォリオ)とPerformance(パフォーマンス)の二軸から人事を捉える考え方である。

ポートフォリオとは、企業がどのような人材の構成で事業を遂行しているかを示す概念である。年齢構成、スキル、役割、人数といった人的属性に加え、それに紐づく人件費総額、単価水準などが含まれる。言い換えれば、経営戦略を実行するために、どのような布陣で戦っているのかを示す「人材の配置図」である。

一方パフォーマンスとは、そのポートフォリオから生み出される成果を指す。単なる結果指標ではなく、「人材の配置図」を成果へと結びつけるために管理・向上させるべき指標群である。生産性やROIといった財務指標に加え、行動発揮レベル、エンゲージメント、マネジメント品質など、非財務指標も含めて捉える必要がある。

重要なのは、ポートフォリオとパフォーマンスが相互に影響し合う関係にあるという点である。スキルが陳腐化した高齢化ポートフォリオは、パフォーマンスの低下を招く。また、マネジメントが機能不全に陥れば、個々の能力が高くとも成果は発揮されず、結果として離職率が上昇し、ポートフォリオ自体が毀損される。

スポーツチームの構成と成績を想像すると、PPフレームの本質は直感的に理解できる。チームにおけるポートフォリオとは、選手の年齢構成、ポジション配置、年俸水準、スター選手と若手選手の比率など、どのような布陣で戦っているかを示すものである。一方、パフォーマンスとは、その布陣が実際に生み出す成果であり、勝率や得点力、守備力に加え、選手のコンディションや連携の質も含まれる。これは企業における人材構成と成果の関係と本質的に同じである。

このように、ポートフォリオとパフォーマンスを切り分けて捉えることで、問題の所在は「人材そのもの」ではなく、「人材構成と成果の関係性」にあることが明確になる。

経営と人事をつなぐ「共通言語」としての効用

人事の課題や人材施策の是非を経営として判断する場面で、PPフレームは力を発揮する。
PPフレームを用いた可視化には、大きく三つの効用がある。

第一に、議論の起点が揃うことである。
課題をどの視点で捉えるのかという「地図」が共有され、属人的・感覚的な議論から脱却できる。

第二に、打ち手の漏れや偏りを防げる点である。
例えば人件費を「人数」「単価」「構成」「スキル」と分解し、パフォーマンスとの関係を整理することで、部分最適に陥らない検討が可能となる。

第三に、経営層への説明力が飛躍的に高まる点である。
なぜその施策が必要なのか、どの指標がどのように影響しているのかを論理的に示すことで、人事施策が経営の意思決定事項として扱われるようになる。

精度よりも「活かし続ける仕組み」を重視せよ

人的資本の開示要求への対応や、タレントマネジメントシステムの普及もあり、人事部門は情報収集に躍起になっている。しかし情報収集が目的化し、その活用にまで至らない状況の企業がほとんどであろう。人事の可視化は、最初から高度な分析を目指す必要はない。まずは自社の人材ポートフォリオとパフォーマンスを、3~5指標に絞って整理するだけでよい。これはあくまで可視化の入口であり、最初から投資回収までを精緻に示すことを求めるものではない。重要なのは、まず全体像を捉え、経営として議論できる土台をつくることである。

例えば、当社では多くの企業のサーベイや定量分析を行っているが、投資効果に与える因子は一定の傾向が見られ、人件費水準、単価、人員構成、生産性、エンゲージメント、上司への信頼度、評価の納得度といった基本指標を定点観測するだけでも、組織の体質は驚くほど明確になる。そしてそれを継続的に数値として推移を追うことで、問題は静かに、しかし確実に姿を現す。

可視化・定量化はゴールではなく、経営改善のスタートラインである。測定、診断し、打ち手を講じ、再び測定する。この循環が回り始めたとき、人事は初めて経営の戦略パートナーとして機能するのである。

トランストラクチャは、PPフレームを軸に、人事を経営の意思決定へとつなげる支援を行っているが、経営者が可視化された報告資料を見て「思っていた通りの結果だね」と感想をいただくことが多い。また「ここまでとは思っていなかった」という声も少なくない。PPフレームによる人事課題の可視化は、企業の未来を整えるための「定期健診」に他ならない。それは、感覚や経験則に依存してきた人事を、データを基盤とした経営判断の領域へと引き上げるための、不可欠な第一歩である。