投稿日:2025.11.28 最終更新日:2025.11.28
労働生産性と時間生産性
~指標に基づく賃上げ判断へ~
目次
要点サマリ
- 「1人当たりの付加価値(労働生産性)」と「1時間当たりの付加価値(時間生産性)」を用いて賃上げの吸収構造を整理しました
- 全産業・製造業・建設業・情報通信業の4業種すべてで、両生産性が上昇しており、特に情報通信業は顕著に上昇しています
- 投資効率(人数)と稼働効率(時間)を区分して観測することで、賃上げの持続性を正しく把握できます。
データ解説1:人数ベースでみる生産性 ― 投資効率の視点
【図表1:労働生産性の推移(法人企業統計・年次)】

出典: 財務省「法人企業統計調査(年次)」 表番号1(金融業・保険業を除く全規模法人)
全産業では労働生産性が前年比+5.7%と、従業員数が減少するなかでも付加価値が堅調に伸び、一人あたりの創出力が強化されています。
製造業は付加価値+7.4%に対し従業員数+2.2%で、効率向上が寄与する構造です。
建設業は付加価値の増加と従業者数の増加が接近しており、効率改善は限定的です。
情報通信業は労働生産性が+10.3%と突出し、少人数で高付加価値を生み出す構造がより鮮明になっています。
データ解説2:時間ベースでみる生産性 ― 稼働効率の視
【図表2:時間当たり生産性(時間生産性)と総労働時間(法人企業統計 × 毎月勤労統計)】

出典:財務省「法人企業統計調査(年次)」、厚生労働省「毎月勤労統計調査(年平均・30人以上)
注記:時間当たり生産性は法人企業統計の「付加価値」と毎月勤労統計の「労働時間」を組み合わせた概念指標で算出式は 付加価値 ÷(従業員数 × 月平均労働時間)としています。
全産業、製造業は+6.4%、+5.6%と堅調で、労働時間の短縮を上回る付加価値の増加が寄与しています。
建設業は+2.9%と改善幅は小さいものの、総労働時間が減少する中で付加価値が上昇しており、長時間労働依存からの構造調整が進んでいると考えられます。
情報通信業は+10.3%と突出しており、1時間あたりの価値創出力が大きく向上しています。
人事施策への活用例
労働生産性だけでは、残業削減などにより「人当たり」が横ばいでも時間効率が改善している場合を見落とす可能性があります。一方で外注化によって従業者数が減少すると、見かけ上の生産性が高く見え、誤った評価や投資判断につながる懸念もあります。
投資効率と稼働効率を分けて観測することで構造を正確に捉えられます。両指標を併用することで、人件費上昇が成果由来か稼働由来かを切り分けられ、報酬改定や要員配置の判断精度を高めることができます。
まとめ
今回の分析では、4業種すべてで労働生産性(人数ベース)と時間生産性の双方が上昇していることが確認できました。これは、単に人員や労働時間の増減ではなく、限られた資源で付加価値を高める方向に企業の取り組みが進んでいることを示しています。
労働市場が縮小し続ける中、人数ベースと時間ベースの両生産性を定常的に観測するために、人事のKPIに組み込むことが求められます。
投資効率と稼働効率を同時にマネジメントし、高付加価値創出の構造を可視化する仕組みを整えることが、これからの人的資本経営の中核を形成していくと言えるでしょう。
以上