投稿日:2025.10.17 最終更新日:2025.10.17
リモートワーク時代の働き方とハラスメント対策
~高止まりする個別労働紛争件数~
目次
要点サマリ
- 個別労働紛争の相談件数から、リモートワークの環境下でのハラスメントの状況を考察します
- 個別労働紛争の相談件数は高水準を維持、いじめ・嫌がらせ相談は増加しています。パワハラ防止法の施行・改正により、相談意識が高まっています
- 企業が人手不足下でも「選ばれる企業」になるために、モチベーションサーベイの導入や心理的安全性向上、透明性ある外部支援活用といったハラスメント予防と継続的な組織改善の施策が必要です
2022年以降、ポストコロナ時代の到来により、企業の働き方はハイブリッド型やリモートワークへと大きく変化しました。この働き方の変化は、従来の全員がオフィスに出社する勤務状況で顕在化しやすかったハラスメントを、より「見えにくい」形で深刻化させる結果となりました。その影響もあり、民事上の個別労働紛争に関する相談件数は依然として高水準を維持しています。
本レポートでは、個別労働紛争相談件数の年度別推移と相談内容のトレンド、そして背景にある法改正や働き方の変化を踏まえ、企業が今後取るべき対応について考察します。
データ解説1:相談件数の推移とその背景
2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークへの急速な移行や出社再開、時差出勤などの混乱が生じました。この時期には、労働環境の変化に起因する相談が一時的に増加し、2021年度には約28万件というピークを記録しました。
その後は相談件数が減少傾向にありますが、これは単にトラブルが減ったというよりも、転職市場の活況や相談チャネルの多様化が影響していると考えられます。人手不足の影響で、労働者が長期的な紛争に持ち込まず、転職によって問題を解決する傾向が強まっていること、退職代行サービスの利用が増加したことが背景にあるでしょう。また、オンラインチャットやメールなど非対面型の相談手段が普及したことにより、従来の労働局窓口への来訪相談が減少したことが考えられます。
【図表1:民事上の個別労働紛争相談件数】
出所 厚生労働省「「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します」から筆者作成
データ解説2:相談内容の変化と新たなトレンド
いじめや嫌がらせに関する相談は年々増加しており、2024年度には全体の46%を占めるまでに至っています。これは、2020年6月に施行されたパワハラ防止法や、2022年4月の改正法による事業主への義務強化、さらに2023年以降の予防措置義務の拡大など、法制度の整備が進んだことによる相談意識の高まりが影響しています。
また、テレワーク環境下では、指示や確認などのコミュニケーションがスムーズにいかない場合があることや、他者の行動に対する信頼感が低下していることなどにより、人間関係不和が起こりやすくなっているということも考えられます。
【図表2:相談内容別 相談件数の推移】
出典:厚生労働省「「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します」から筆者作成
人事施策への活用例
リモート環境下での人間関係不和やハラスメント防止には、モチベーションサーベイの導入が効果的です。このサーベイは従業員のモチベーションやエンゲージメント、満足度を測定し、組織の改善施策を具体化するツールです。調査結果を基に心理的安全性や職場環境を向上させる施策を実施することで、離職率の低下やコミュニケーションの改善につながります。さらに、外部支援の活用や透明性の向上を図り、トラブルを未然に防ぎつつ働きやすい組織文化の形成が重要です。 労働相談件数の増加は、相談制度の浸透と働き方の多様化による新たな課題の顕在化を示しています。人手不足が進む中で「選ばれる企業」と「選ばれない企業」に二極化しつつあり、選ばれるためには心理的安全性の向上やハラスメント防止が欠かせません。人事トラブルの予防・早期発見を通じて組織改善を続ける努力が、企業の持続的成長を左右する鍵となるでしょう。
以上