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人事分析手法ノートVol.2

第3回 「社員の流動性」

執筆:久保 博子   監修:林 明文

<チャート>
給与という観点から、社員の労働市場への流動性がどの程度であるかを見る分析です。

左図は社員一人ひとりについて、社内年収と社外年収を設定し、プロットしたものです。
縦軸は社内給与、横軸は社外給与です。45度線は、社内と社外の給与が一致しているラインを現します。45度線以外のラインは、45度線(社外水準)の上下10%の水準を現します。

右図のX・Y・Zは、流動リスクのレベルを三段階で区分したものです。割合はその区分に分布している人の総人数に占める割合です。
X:流動リスクが極めて低い。外部水準より10%以上高い水準。左図でいう45度線の上の線よりも上にプロットされている人の割合
Y:流動リスクは低い。外部水準の上下10%範囲以内の水準。左図でいう45度線の上下線の間にプロットされている人の割合
Z:流動リスクが高い。外部水準より10%以上低い水準。左図でいう45度線の下の線よりも下にプロットされている人の割合
<分析の概要>
 企業の成長には、計画的で安定的な人事管理を行うことができるということは重要な視点です。想定される範囲内で、一定人数、一定率の社員が会社を辞めることは仕方のないことだとしても、想定以上の人材が流出すると、計画的で安定的な人事管理は難しくなります。そのため、自社における社員の流動性がどの程度かを把握しておくことは人事管理上極めて重要です。

 社員が会社を辞める理由には、一般的に、①会社・ブランド、②職場・人間関係、③人事・処遇の3つが重要な要素と言われています。本分析は、③の処遇(=給与)の高低による人材流動リスクを把握するものです。給与の高低とは、現在もらっている給与と労働市場に出たらもらえるであろう給与との比較によって認識されるものです。

 給与により人材流動性が高まった例として、よく言われるのは建設作業従事者です。近年、建設作業従事者の需給バランスが崩れ、労働市場の給与相場が上がり、今までの給与水準のままだと人材確保が難しい状況になりました。

 中途労働市場の発達やインターネット上に情報が流出しやすいことにより、今働いている企業にいるよりも転職したほうが給与が高くなるらしい、という処遇情報を入手しやすい時代となっていることも、流動化を後押ししていると言えます。

 理論的には、労働市場給与>社内給与であれば労働市場に人材が流出しやすくなります。反対に労働市場給与<社内給与であれば給与的な面での流出リスクは小さいと考えられます。社員一人ひとりの労働市場への流出リスクを給与という観点で分析しているのが、人材流動性分析です。

 流動性分析では、社員一人ひとりについて、社内での年収(社内年収)と、外部に出たときにもらえるであろう給与(社外年収)とを比較します。社外年収はベンチマークデータをもとに設定します。ベンチマークデータには、自社が属する労働市場のデータを用います。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」や業界団体の統計調査等様々な統計資料がありますので、分析に適したデータを選定してください。望ましくは、職階(部長級・課長級・係長級・一般級等)別年齢別にベンチマークデータをとれるとより現実に即した分析になります。
 
 また、社外年収を設定するにあたり、外部データの「中高年補正」をする必要があります。一般的に45歳以上が転職する場合、今までと同額の給与で転職することは難しいと言われています。そのため、社内年収を維持した金額での転職や、ベンチマークデータ水準での金額で転職できることは稀です。中高年についてはベンチマークデータを現実に即して下方修正して用いる必要があります。下方修正の度合は、業界にもよりますが、一般的には20%~30%程度が目安として考えられます。

 社内年収と社外年収が設定されたら人材流動リスクを認識することができます。
リスクを認識する上では、①外部よりも著しく高いレベル、②同水準レベル、③著しく低いレベルの三段階に区分する必要があります。人材流動リスクが高いかどうかは、③の外部よりも著しく低いレベルが全社員のうちどの程度いるかということで判断します。
尚、①から③は、①社外年収よりも10%以上高い②社外年収の±10%範囲内、③社外年収よりも10%以上低い という基準で区分します。 
 
 一般に、全社員のうちの1/3(33%)が③に区分される会社は、給与という観点で、人材流動リスクが非常に高い会社と判断されます。

 また、この人材流動リスクを把握する上では、全社分析だけでなく、年齢別、職階別、等級別、地域別、パフォーマンス別等、属性別に分析することでより問題の所在を明確にすることができます。特に属性別に自己都合退職率が違うケースなどは、この流動リスクと連動している可能性が高いので検証するとよいでしょう。
<分析結果から>
 本分析は、流出リスクがないから問題ない、あるから問題であるということではありません。
 
 外部労働市場に比して給与水準が高い企業は、労働分配率などの観点から人件費が適正であれば給与水準を見直す必然性はないでしょう。反対に、全体として外部労働市場に比して給与水準が低く、人材流動性が高い企業は労働市場で競争力のある人件費単価水準を検討する必要があるでしょう。

 ただし、再度ここで留意を促したいのは、この分析はあくまで給与の観点であるということです。転職の動機は給与だけではないことは冒頭説明しました。給与が低くても、会社や仕事そのものの魅力が強い会社は、本分析で流動リスクが高いと判断されても、自己都合退職率が極めて低いというケースもあります。

 給与という一側面の分析であることを前提とし、「仕事の魅力」や「人間関係の魅力」も総合的に捉えて流出リスクを測定したい場合は、例えばモチベーションサーベイと組み合わせた調査を行うとよいでしょう。

執筆

久保 博子 (くぼ ひろこ)

コンサルティング部 シニアマネージャー
国内大手生命保険会社を経て、現職。プロジェクトマネージャーとして組織・人事コンサルティング業務に携わる。人事制度設計を始め、グループ人事管理の仕組みやセカンドキャリア制度、研修企画等、数多くの企業の人事改革プロジェクトを担当。他方、自社内の商品開発業務や、管理部門の実務責任者として全社の基盤構築業務にも従事。

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監修

林 明文 (はやし あきふみ)

代表取締役 シニアパートナー
青山学院大学経済学部卒業。 トーマツコンサルティング株式会社に入社し、人事コンサルティング部門シニアマネージャーとして 数多くの組織、人事、リストラクチャリングのコンサルティングに従事。その後大手再就職支援会社の設立に参画し代表取締役社長を経て現職。明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科客員教授。

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