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故きを温ねて・・

執筆者: 森 大哉 人事管理

新しい期を迎え、ただでも多忙なのに、部下の人事評価を書いて人事部に提出しなければならない大変な時期だ。人事評価などという仕事は面倒くさいものだと思っている管理職は多いだろう。いきおい、何とか「表を埋める」ことに終始することになる。評価される側にとっても、普段の仕事を評価されるとなると楽しいことばかりではないだろう。評価が公平でないなど不満の声を上げる向きも多い。多大なパワーをかけて行うこの人事評価という年中行事、もっと効果的なものにする手はないものだろうか。

先日、100年近く前にわが国の海軍省が運用していた古い人事制度の話を聞く機会があった。ずいぶん昔の、しかも軍という特殊な組織の中でも、私たちが日頃目にしているのと同じような人事評価制度が運用されていたことを知り、興味深く感じた。だが、それにも増して印象深かったのは、その評価制度が現代の我々の悩みにも存外答えてくれそうなものであったことだ。

まず、人事評価の目的を何に置いているか。海軍省では人事評価の主目的を、「適材を発見し、適所に配置すること」とし、同時に「適切な教育を実施すること」としていた。「進級と増俸の決定は人事評価の副次的な目的」であったという。この点、現代でも変わらぬ重要なポイントを衝いているではないか。社員の能力の不足を精力的に補い、偏り無く人材を配置し続けることは、会社の成長と生産性向上に欠くことのできない仕事だ。人事評価、特に能力評価はこのためにこそあるといえる。評価の目的をきちんと理解すれば、多忙な中でもきちんと時間を割いてじっくり向き合うべき仕事だと考え直すことができる。

また、被評価者の個別事情に配慮していることも見逃せない。決められた評価フォーマットの中には、被評価者の自己申告を記述するスペースがあり、上官は、被評価者本人の意思を十分に斟酌したうえで、本人のワークモチベーションに十分に配慮した適正な配置を進言するという仕組みになっていたようだ。

この評価制度は、また、人事評価の基礎として十分な観察と正確な記述を求めていた。「評価者は、常日頃からよく部下の言行、技能、能力を観察し、慎重に考察のうえ、正確な考課事実を集め記述すべきだ」とし、評価の記述に当たっては「忌憚無く的確精細に記述して本人の真価を表現するように努めるべきだ」としている。さらに、「婉曲すぎて真意を伝えにくい文章の修飾を避け、直裁に真相を表現するべきであり」、そのためには「慣用句や俗語を使っても構わない」としていた。

さらに、この評価制度は、「評価は評価時期にだけ行う仕事ではなく、評価期間の途中であっても賞賛や非難に値する行為があったときや能力や身体の状況に特筆すべき変化が起こったと認められた場合は、そのポイントだけを評価表に記述し臨時評価表を提出すること」を求めていた。これらのことは、勘や印象に基づく評価を避け、事実に基づいた正確な評価を行おうとする誠に的を射た施策であり、今日の多くの管理職にとって耳の痛いアドバイスである。

評価者から収集された評価表の記述は、「短冊」と称する個人別帳票に転記され、訓練実績、能力の伸長、本人の志向など一目瞭然にがわかるよう人事担当部局で大切にファイルされていたそうだ。いまでこそ人事データベースの整備が唱えられるが、有効利用している会社が多いとはいえないのではないか。

海軍省の人事評価の仕組みには、限られた人材の力を十分に発揮させ、組織のパフォーマンスを最大化しようとする工夫がたくさん詰まっていた。人事評価の本質は時代や組織を超えて普遍のものなのだろう。

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プロフィール

森 大哉 (もり ひろや)

代表取締役 シニアパートナー

早稲田大学法学部卒業。三菱重工業株式会社に入社し、労務管理・海外調達関連業務に従事。同社在職中にニューヨーク大学経営大学院修了。その後、トーマツコンサルティング株式会社に入社。戦略・組織コンサルティング業務を経て、同社パートナー就任。続いて、朝日アーサーアンダーセン株式会社にて、人事組織コンサルティング部門の部門長として数多くの組織変革を支援。同社パートナーを経て、現職。学校法人桜美林学園理事。

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