人事トレンド

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パワーハラスメントを初めて厚生労働省が定義
2012年02月05日


職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告(平成24年1月30日)
URL 
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000021hkd.html


 ハラスメントを使ったいじめ・嫌がらせの用語が日本社会において定着してきており、セクハラ、パワハラ、アカハラ、ドクハラといった言葉は日常会話の中でも使われることが多くなった。このうち、セクハラ防止対策については男女雇用機会均等法において既に法制化されており、事業主が講ずべき措置として具体的に9項目が定められ、防止に向けた取り組みが進んでいる。

 一方、パワハラについては、今回のワーキング・グループのメンバーである岡田康子氏が2001年に作った言葉であり、セクハラのような法的な定義もないまま、これまで職場のいじめ・嫌がらせを“いわゆるパワハラ”といった表現で使用されることが多かった。平成13年に労働者と事業主との間の紛争を円満に解決するための「個別労働紛争解決制度」が施行され10年経過したが、相談件数は毎年右肩上がりに増え、ここに来て高止まりの状況となっている。それによると、いじめ・嫌がらせの内容は解雇について2番目に多く、解雇に関する件数が減少する中でいじめ・嫌がらせに関する件数が増加している。実際、企業や健保等の伝言ダイヤルやホットラインにも数多くの相談が寄せられていると聞く。

 このように、職場におけるいじめや嫌がらせが社会問題化している中、厚生労働省が初めてパワハラについての定義を定めた。やっと、というのが正直な感想である。
定義は以下の通りである。

 


1.暴行・傷害(身体的な攻撃)
2.脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3.隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4.業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5.業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6.私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 年度内に予防・解決に向けた提言をとりまとめるとしているが、おそらくセクハラに準じた取り扱いとなることが予測される。


 ここで実務上の難しさが予見されるのは、暴行や名誉毀損といった刑事罰の対象となるような行為は分かりやすいので委員会を立ち上げても解釈に迷いは生じないだろうが、“業務の適正な範囲を超えて”の解釈は、特に管理職側の混乱を招くと思われる。パワハラの定義は言うまでもなく上司から部下だけではないが、事例の多くはこれに該当する。


 セクハラはアメリカから輸入された定義である一方、パワハラは日本が独自に作りだした和製英語である。ある意味、パワハラは日本独特の組織の上下関係が生み出したとも言える。


  平成22年の賃金構造基本統計調査によると、役職者の平均年齢は46.2歳となっている。現在の役職者の多くが経験してきたであろう職場の原風景は、上司や先輩の背中を見て覚えろ、であったし、夜遅くまで全員が残業し長時間労働を美徳としてきた時代であったし、上司が飲みに行くぞと言えばノーということなどありえなかったし、……というものではなかったろうか。上司―部下間の人間関係の密度は公私にわたって濃く、上司の叱咤激励の繰り返しの中で成長してきた背景がある。それがここに来て、業績必達を求められるあまり部下指導を強めたり、過去自分たちがやってきたことを理由に部下にも同じような行動を求めたり、という行為がアラームだと言われてもピンと来ない管理職が多いのではないだろうか。特に4.〜6.については、部下を思っての行動であると管理職が信じて行っていた場合、“業務の適正な範囲”とは結局グレーであり、周囲に聞いても、それが行き過ぎた指導なのかそうでないのかは各人の主観によるところが大きいだろう。


  年度内にワーキング・グループから効果的なパワハラ防止対策のためにセクハラに準じた取り扱いが提言されると思うが、各企業には特に、“業務の適正な範囲を超えて”のグレーゾーンについて社員に正しい認識を促し、職場の混乱を払拭することに努めてもらいたい。具体的には、セクハラ防止対策施行前後で多くの企業が就業規則改定や行動規範、防止マニュアル等作成を行ったうえで研修を実施しセクハラ防止浸透に努め効果を上げたように、今回も同様の取り組みを行うことが有効と考える。そういった具体的な取り組みをしないことには、“こうしたことは普段のコミュニケーションが不足しているからです”、とか、“マネジメントスキルが不足しているため叱って業績を上げるようになるんです”といった、コミュニケーション問題やマネジメント不在といった、広くて深い魔物のような領域に取り込まれ、本質的な解決が行われないことになるのではないかと危惧する。


(文責 芝沼 芳枝)

次期通常国会での法改正を目指す 
高齢法、労働契約法
2012年01月15日

                                             
労働政策審議会建議―今後の高年齢者雇用対策について(平成24年1月6日)
URL 
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001zl0e.html
労働政策審議会建議―有期労働契約の在り方について(平成23年12月26日)
URL 
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl.html

 

 年末から年始にかけて、労働政策審議会が小宮山厚生労働大臣に対して、今後の高齢者雇用対策と有期労働契約の在り方について、それぞれ建議を行った。来年度の予算案にも既に盛り込まれており、次の通常国会で高齢法、労働契約法の改正を目指している。
特に大きな話題となっているのが、希望者全員の65歳までの継続雇用義務化についてである。上記URLは直近で最新のものを表示したが、話題を呼んだきっかけの資料は12月14日に掲載されたたたき台である。上記最新の資料は、その後労使の委員の意見を受けて修正された箇所などがあるため、14日の資料を基に報道された内容で記憶している方は、下記参考資料に示した14日の資料から順次追って上記資料に辿り着いていただきたい。


まず、高齢法に関連した報告書の主な内容は以下の通りである。
1. 希望者全員を継続雇用
現行の継続雇用制度は労使協定により基準を設ければ対象者を限定できることとなっているが、これを2013年度からの公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢引き上げに伴い、無年金・無収入者が発生しないよう基準を廃止する。ただし、経過措置を設けることが盛り込まれた。
2.雇用確保先の拡大
(1)親会社、(2)子会社、(3)親会社の子会社(同一の親会社を持つ子会社間)、(4)関連会社など、事業主としての責任を果たしていると言える範囲において、継続雇用における雇用確保先の対象を拡大する。
3.指導に従わない企業名の公表
未だ雇用確保措置を実施していない企業に対し措置が実施されるよう、指導の徹底を図り、指導に従わない企業に対する企業名の公表等を実施する。
4.制度導入に向けた支援策
希望者全員の65歳までの雇用確保についての普及・啓発や、同制度の導入に関する相談支援等を行う。


 参考までに東京商工会議所が行った「高年齢者雇用に関するアンケート調査」(平成23年11月)を示しておくと、継続雇用の基準を設けている企業のうち56.8%が基準廃止について反対しており、そのうち47.4%が基準が廃止された場合、経営に大きな影響があるという結果であった。その場合、自社の対策として、賃金制度など、労働者全体の処遇を見直したり採用抑制を行うといった回答が挙げられた。
 


 高齢者雇用が若年採用抑制につながるとの議論が多く出ているが、報告書では、高齢者と若年では労働力が質的に違うとし、さらに長期的な視点で、それぞれの意欲と能力に応じて働ける環境の整備をすることが重要、としている。

 
  次に、有期労働契約の在り方についての報告書の内容は以下の通りである。
1. 有期雇用期間の上限
  


2. 雇止め法理の法定化
これまでの判例法理をルール化することで紛争を防止する。
3. 期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消
有期雇用であることを理由とした不合理な処遇を解消し有期労働契約者の公平な処遇を実現する。



 これまで企業は、本業の業績回復が厳しい状況下、事業の統廃合、M&A、海外への一部移転等に併せ、給与カットや希望退職等雇用調整施策の実施など、あらゆるコストの削減に努めてきている。当然人事に対する経営からの要請も厳しく、待ったなしの状態で、現状のコスト削減施策を的確に実行することを求められる一方で、企業の業績回復・活力向上に向けた社員のモチベーション維持・向上、新規事業立ち上げ人材や次世代リーダーの輩出、適正要員数の把握と要員の適正化、人件費の変動費化、生産性向上・付加価値創造型業務への転換、等々への対応が求められている。

  このような中、高齢法への対応については、前回改正の平成18年4月の施行にあわせ、多くはガイドラインに沿って労使協定を締結し、希望者のほぼ全員が再雇用となってきたのが実態である。高齢法のさらなる改正の目的は、雇用と年金の接続であり、定年後継続雇用を希望していても基準により無収入となる事態を避けることにあるが、基準により離職を余儀なくされた人は1.8%・約7,600人となっている。多くの企業では、平均年齢が高年齢化しており、今後再雇用者が増加し社員全体の一定割合を占めることが予定されており、新卒採用をはじめとする若手採用が抑制され人員構成がさらに歪となる事態を重く見て、ゆるい基準の労使協定を見直すことを検討している段階にあった。

 
  要員の適正化や人件費の変動費化を図る中で、有期雇用契約者(パートや契約社員等)の無期雇用契約化への動き(当然派遣労働法も審議が進むであろう)とあわせて考えると、企業はより人件費管理を強めていく上で、要員管理の徹底と必要人材の見極めを強化していくだろう。つまり、成果や中長期的な貢献等の評価を積み上げることによって人材そのものを評価していくという、真の成果主義時代が到来すると言える。現在、多くの企業で成果主義人事を採用しているが、制度で規定されているとおりの運用を行っている企業は少ないと言え、メリハリのある評価や、業績や貢献に応じた成果配分がドラスティックに行われている状態にはない。  

 
  前回の高齢法改正で対象者選定の基準例に能力・経験を入れたことにより、評価結果の開示が促進された効能もある。今回の上記2法の改正で、成果主義人事へのさらなる改定、運用の徹底、ローパフォーマーなどミスマッチ人材の代謝が促進されると思われる。
(文責 芝沼 芳枝)

年金支給開始年齢引き上げ
〜国民的話題に〜
2011年12月15日

第4回社会保障審議会年金部会資料(平成23年10月11日)
URL  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001r5uy.html

 

    今年は、かつてないほど大きな出来事が連続した(している)年だろう。3月11日の東日本大震災、節電対応、放射能リスク、そして年の後半に来て、記録的な円高の進行、工場の海外移転の加速、テレビの自社生産縮小・撤退、タイ洪水による工場立地戦略の見直し、欧州信用不安、TPP問題等々、どれを取っても注視に値する、一瞬でも目を逸らすことができない重大なトピックばかりである。
そんな中、厚労省が発表した年金支給開始年齢を68〜70歳に引き上げるという検討案は、連日のテレビや新聞報道、週刊誌等の連続号掲載となる大きな話題となった。既に平成25年度から(女性は5年遅れ)厚生年金の65歳支給は決定しているが、基礎年金についても65歳からの引き上げ検討案が盛り込まれていたため、サラリーマンだけでなく全国民を巻き込むこととなった。結局、特に現役世代からの相当な反発を受け、来年の通常国会への法案提出を見送る顛末となったが、年金支給に対する国民の不信感は一層強まる結果となった。
一方、企業にとっても、65歳雇用義務化への対応が済んだばかりのところに更なる引き上げ案の発表と、70歳雇用ともなると、約50年の雇用期間をどう実現していくのか、大きな検討課題を国から提示された形となった。


    引き上げ年齢が70歳という案は、今年6月に発表された『今後の高年齢者雇用に関する研究会〜生涯現役社会の実現に向けて〜』報告書に既に盛り込まれている。第4回の年金部会の資料は、高齢者雇用の確保を図りつつ年金支給開始年齢の引き上げを検討する、ということで、6月の報告を踏まえた内容となっている。座長が慶応義塾の塾長である清家 篤氏ということもあるのだろう。70歳まで働けることは当面の課題として、将来的には生涯現役社会の実現を目指して環境整備が必要、と6月の報告書には書いてある。ちなみに清家氏は2000年に『定年破壊』を上梓し当時話題を呼んだが、既にその前の1998年に『生涯現役社会の条件』という著書を出しており、高齢化社会に向けた様々な提言を出している。


    そもそも、年金支給年齢引き上げは、雇用と年金が接続することが前提である。年金支給の開始年齢が引き上がったうえ、雇用の空白期間が生じるような事態が発生することは避けなければならない。その雇用は、人口のトレンドに依存している。予測を上回る少子化と高齢化、これに経済の低迷が追い討ちをかけ、年金の財源不足が一挙に表面化した。経済成長を促すには、働いて収入を得る人口を増やすことである。これを「生産年齢人口」と言って、“15〜64歳”と定義されている。人口のピークは2005年に1億2770万人となっている一方、生産年齢人口は1995年(8716万人)がピークとなっており、総人口に先駆けて既に減少局面に入っている。これが内需拡大を生まない低成長経済の最大の要因であると指摘をされている。



図表1 人口のトレンド


 
 

   一方、65歳以上の人口は増加の一途を辿っており、65歳以上のうち65〜74歳人口は2022年まで増加し、その後は減少していく、と推計されている。少子高齢化の日本において、生産年齢人口の増加を若手には期待できず、増え続ける65歳以上の老齢人口を働き手に、というのが高齢者雇用確保の根本にある。

    一方、就労側の働く意欲はどうだろうか。日本人の働き方の実情を把握することを目的とし定点観測的に調査されている独立行政法人労働政策研究・研修機構『平成21年度日本人の就業実態に関する総合調査』によると、「65歳」まで働きたいが最も多く31.4%、次いで「60歳」が19.4%である。66歳以上では約23%あり、65歳と合わせると5割を超え就労意欲は高い。



図表2 正社員の就労意欲(問:あなたは何歳まで収入のある仕事をしたいですか)

 

 資料出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構『平成21年度日本人の就業実態に関する総合調査』



  以上のような背景を踏まえ、人事部門は、70歳雇用もしくは年齢の定めのない働き方や雇用方針について、これまで以上に本質的な議論が求められている。特に、今後10年は60歳以上の人口が増えるのに連動して再雇用者のボリュームが増えるため、定年後再雇用者について、これまでのような人数が少ないことを前提とした“おまけ雇用”とするのではなく、経験もスキルもある一定ボリューム層を戦力ととらえ、どう業績に貢献する人材として位置付けるのか、さらにその先はこれらの老齢人口も減少していくため、労働力を中長期的にどう確保していくのか、等々について、10年単位での方針策定が必要となる。65歳雇用に向けて、これまで幾つかの施策はとられてきたが、多くは、(1)定年時点で賃金水準を減額して再雇用、(2)早期定年制を導入して60歳前に退職、(3)50歳等ある時点で雇用に関するコースを選択して生涯賃金を保障、といったいずれか、または組み合わせの施策となっている。
今後は、自社またはグループの中での雇用方針をどう描くか、1社の中で50年の職業人生を全うさせるのか、それに伴いキャリアゴールやパスをどう設定するのか、究極のところ人事制度や人材フロー施策をどう設計すべきか、等々今までに増して難しい議論となることが推測される。人事部門は、これらについて経営からも社員からも、また社会からも明確な方針と施策についての提示を要求されることになるだろう。


 最後に余談だが、年齢や寿命の話になると、いつも本川達雄氏の『ゾウの時間ネズミの時間』を思い出す。本川氏によると(生物学によると)、哺乳類の心臓は一生の間に15億回打つと言う。それを平均的な心拍数で割ると、約40年で寿命が来ることになる。しかし、実際日本人の平均余命は80歳を超える。寿命を超えて存在するヒトという特殊な生き物。会社では、40歳以降を人間味や経験・スキルが伴った円熟期と位置づけ、会社に対して多くの利益創出をもたらす人材として要求される。おまけ雇用ならぬ寿命のおまけの時間で経済成長に貢献するのか・・・・・・とも思ったりする。


参考図書
・ 『定年破壊』(講談社)清家 篤
・ 『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)本川達雄

(文責 芝沼 芳枝)

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