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最新コラム「人事管理」

自律型人材
執筆者:林 明文

 自律型人材という言葉がたびたび登場するようになって10年くらいだと思います。この自律型人材というのは、「自ら主体的に考え行動する人」「創造性を発揮し、自ら課題を発見し、解決する能力を持てる人」「自己のキャリアの領域や働き方を自分のライフプランや意志に基づき自分で判断する人材」という定義が一般的でしょう。このような人材パターンを好ましい人材像と標榜する人事制度などもよく目にします。この人材像が取り上げられる背景はいくつかの要因があります。まず第一には経営環境の変化です。多様なサービスや、変化の激しいマーケットに柔軟かつスピーディーに対応しなければならないという背景です。また以前に比較して人生に対する考え方や生活のあり方が多様化しています。企業で定年まで勤めあげることだけでないライフスタイル、例えば地域の活動や家事、趣味などの時間と、仕事をバランスよくさせる考え方もあるという事です。女性の雇用が増えてきたこともこのような多様な働き方の選択、ワークライフバランスという観点での多様化を推進させる大きな要因です。


 しかし、この自律型人材を育成するという人事方針が十分に達成されている企業はほとんど見たことがありません。企業の中でいったい誰が自律的で誰が自律的でないかもよくわかりませんし、自律型人材育成を標榜する企業で、誰が自律型人材と認定している企業もありません。コンセプトはわかるのですが、経営感覚と独自性と積極性を持った給与所得者が長年安定して勤務することなどありえないと思います。そのため、この自律型人材は最近では“リストラ”的な手法を隠蔽するための独特の表現方法になっているように見えます。


 自律型人材を取り上げる要因としてもう一つ大事な要素は、企業の雇用力が低下していることがあります。特に65歳までの雇用が義務づけられている現在において60歳定年の後、5年間の雇用を継続しなければなりません。日本の経済が高い成長軌道に乗っていれば、企業も雇用する力がありますが、残念ながら中長期的には高い成長は望めないことから、この定年後再雇用は企業にとっては大きな負担感があります。人件費を大幅に上昇させることは難しい企業が多く、そのため高齢者の雇用に積極的になれないということです。


 企業としては高齢者の定年を延長するよりも若い労働力を得たいと考えるのは当然で、60歳定年後の雇用を形だけ整備し実際にはあまり継続雇用しない企業も散見されます。しかし、環境は強く企業に社会的責任を果たすような力が働いています。本音は高齢者の継続雇用はしたくないが、建前はしなくてはならないという狭間のジレンマが企業の人事施策として如実に現れているのが自律型人材というキーワードです。


 自律型人材のコンセプトを肯定的に解釈すれば、社員は雇用受け皿があまり豊富でない企業の状況も察した上で、自己意思としてキャリアの選択を行うということになるでしょう。別な言い方をすると、社員側と企業側が暗黙にキャリア選択の最適な状態に調和するということです。実際には高齢者の魅力ある職場や処遇が潤沢に用意できないことも理解した上で、社内での限定的な仕事で納得したり、多少優遇した退職条件で社外への転出に合意するということです。この肯定的好意的な解釈を広げて表現すると、“個人の自律的な自由な意志で自己のキャリアの可能性を最大化する”“社員の個を尊重して定年年齢と働き方は自分で決める”などのようになります。


 さて肯定的な表現とは反対に否定的、諧謔的、現実的な解釈をすると、新手の早期定年、新陳代謝施策であるということです。“会社は60歳以上の社員から多くのことを期待されても困る。表立って言わないが、限定された仕事しか用意できず、しかもいすの数は限られている。能力や意思を反映した全員が満足する可能性は高いとはいえない。したがって会社を早期に退職することも視野に入れてよく考えてください”ということです。実際には社員の能力と志向から希望するキャリアと、企業が用意できるキャリアには質量ともギャップがあります。そのため一部の人は希望どおりになるでしょうし、一部の人は希望に届かないキャリアになります。また一部の人には全く希望に満たないことにもなりかねません。満足が得られないと考える社員にはやんわりじわじわ退職の勧奨をするということです。自律型人材の議論のもう一つの解釈は、長期間かけての将来処遇の妥協か社外転出を選択させることにあります。


 自律型という概念を閉塞した企業人事を解放する新たな方針と解釈するか、逆にきわめて現実的なイス取り競争と解釈するかは企業によって異なります。しかし多くの企業ではこの二つの考え方の中間にあることは確かだと思います。この問題を解決するためには企業が高い収益力成長力を持つことが最大の解決策です。収益力成長力が維持できないと、表面上はきれいな言葉で語られる自律型人材議論は、実際は選抜と勧奨ということになります。自律という言葉は、あたかもきれいな言葉でうまく予定調和していく都合のよい言葉に聞こえます。しかし現実の企業の目的は、退職しろとは明言しないで察しろという意味合いが強く感じられます。自律型という言葉が経営、人事で新しい時代の働き方のような言い方がされますが、社員からは戸惑いと共によくわからない考え方であると思われることが多いのではないでしょうか。経営も人事も、もっと現実と将来をストレートに説明、議論すればよいだけです。きれいごとの、あたかも最新の考え方のような似非論理は、企業人事の本質的活力維持発展に寄与しないばかりか、マイナス影響が大きいと認識するべきでしょう。

 



(2011年06月29日 林 明文

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