
最新コラム「人事管理」
再就職支援業界発展のために
執筆者:林 明文
再就職支援サービスは会社都合による離職者の円滑な再就職を促進するサービスであり社会的な意義の高い事業です。実際には大手企業や外資系企業での人員削減時に利用されるため、大企業出身の社員を中堅中小ベンチャー企業へ移動させるということになります。日本では新卒優秀者のほとんどが大企業か外資系企業へと就職します。中堅中小企業は優秀な新卒をとることがむずかしいということです。中堅中小企業がより成長するためには、優秀な労働力が移動することが人事的には重要となります。中堅中小企業の人材レベルは相対的に低く、そのため成長が阻害されているともいえます。再就職支援サービスは、このような成長する中堅中小企業に人材を移動させるという使命を持っているともいえます。
日本における再就職支援は単に人員削減の武器ということではなく、円滑な労働移動をする事による成長企業の支援という使命をも担っています。欧米では社員をやめさせるための道具としての有用性からこのサービスが定着していますが、日本では人員削減の武器、人事の免罪符としての役割以上の機能が潜在的に期待されていたということになります。
このような潜在的な社会的要請に応えていくことが業界としての使命ということになります。業界のあり方や将来展望も含めて、業界としての結束や相互協力が必要ということでした。しかし極めて高率で成長する市場の中で勃興期の再就職支援会社の中には単に成長性が高く利益率がよい事業としてのみとらえる会社もあります。企業としての収益性を極めて重視する会社では、社会的な意義や業界としての活動というものの必要性を理解することができません。
勃興期の新規参入した会社の中にはこのような会社が多かったと思います。具体的にはサービスの品質が低い、誇大広告、ダンピングなど適正なサービス提供をしない会社などもありました。このような低レベルの会社の存在は未だにこの業界の適正な発展のマイナス要因となっています。そもそもリストラ時に成長する不況型産業ですのでイメージが明るくありません。意義は高いものの暗いイメージやあやしいイメージを持たれがちです。またこのビジネスモデルの大きな特徴として、対価を払うのは企業でサービスを受けるのは企業を退職した人ということです。サービスを受ける人が対価を払わない構造であること、またサービス開始時点で対価の支払いをすることから、低レベルのサービスをしてもクレームが表面化しづらいということになります。この構造が低レベルのサービスを生む一つの要因となっています。特に基本4サービスの内、求人のサービスは、求職者に対して個別に求人開拓をする地道でコストのかかるサービスです。利益率向上のために求人サービスに対する投下を抑えるというコントロールが可能であるということです。しかし求職者に十分なレベルのサービス提供ができなければ、業界としての必要性が問われてしまうことになります。
誇大広告も大きな阻害要因です。対価支払とサービス受益者が異なるため、また業界として客観的で正確な品質基準が確立できていないために、各社の営業は誇大気味になります。サービスの満足度や求人数(特に再就職支援会社が独自に開拓した求人)や再就職決定までの期間や決定率などの統計を適正に提供している企業ばかりではないというのが現状でしょう。企業側からみると、外形的には各社のサービスは同じように見えますし、統計などの実績数値も大きな差があるように見えないということになります。
もう一つの問題はダンピングです。営業交渉としての価格競争はこの業界の発展のために必要ですが、この業界では、驚くようなダンピングをする企業もあります。退職した社員を確実に転職させるためには、一定のコストがかかります。一般的には現時点では一人当たり70万円以上の価格が適正なサービスを提供する上では必要かと思います。しかし希望退職のように一度に多人数の受注であればボリュームディスカウントはあり得るでしょう。しかし一人当たり50万円を下回るような価格を提示するような企業などもあります。長い歴史からみるとそのような低価格誇大広告企業は淘汰されることになりますが、業界の健全な発展を阻害しています。
この業界の果たす使命は変化しつつあります。現時点では主に業績低下時の人員削減のツールとして位置付けられています。しかし成果主義的人事制度が進んでいる米国の例などに見られるように、このサービスは一時的な人員削減のためのものであると同時に、低業績者、低モチベーション社員の継続的な入れ替えのためのサービスとなっていくでしょう。一定人数を採用すると適性が無く業績貢献できない社員や低いモチベーションの社員が一定比率発生します。このような社員を定年まで雇用することが、企業側も社員側にも好ましい状況ではありません。適職に就きキャリアを伸ばすことが社員にも望ましい状況でしょうから、一つの会社の中で適職を探すのではなく、労働市場の中で適職に再配置するという機能が、再就職支援業の新たな重要な使命ということになります。具体的には低業績低モチベーション社員の再生サービスと社外への転出支援ということです。企業人事もこのような新陳代謝をすることによって労働市場の中で保有人材の最適化を図ることができます。逆に社員側も小さな一つの企業内での適職探しではなく、広い労働市場で再チャンスを得られるということです。
今後の日本企業の人事はより合理性が求められます。人件費や人員数に対しても厳格な管理が必要です。激変する環境の中で最適な人事を行っていく上で、日本的な成果主義人事制度と共に継続的な人材の入れ替えが必須となります。継続的な人材入れ替え機能を実行するためには、企業の人事をより合理的構造的に解析すると同時に、小規模な雇用調整を毎年実施しなくてはなりません。さらに信頼性のある再就職支援機能が必要になるということです。このようなアウトフロー機能(社員から見ればセーフティーネット機能)を担う企業としての位置付けが今後この業界に求められていきます。未だ平時における人材の入れ替えという考えは日本企業では定着していませんが、第一次ブーム後の単なる規模縮小にならないような市場の開拓が求められています。この業界の新しいステージが始まろうとしています。
以上
(2010年07月29日 林 明文)
