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障害者雇用の現場にて
執筆者:神谷 学
「ミネルヴァは武装したまま生まれてきた」
ミネルヴァ(アテナ)はギリシャ神話の知性の女神ですが、ゼウスの頭から、武装した成人女性の姿で生まれ出たと伝えられています。
しかし、通常、私たちが何か新しいことに取り組む際には、常に何もない荒野に赤ん坊の姿で放り出されるところから始まります。
企業福祉の総合コンサルティングファームである私たちは、障害者雇用をめぐる企業の課題解決ニーズが極めて強いことを実感し、職業リハビリと障害者雇用労務の専門家を集め、障害者雇用を専門に扱う人材紹介・コンサルティングサービスというあまり聞きなれない事業を昨年ゼロから立ち上げました。こうしたサービスベンダーがこれまで皆無に近かったことから、大変多くの企業と求職障害者の方々から問合せをいただき、成果が見え始めると同時に、障害者雇用の置かれた社会状況に思いをはせざるを得ない局面も多々あります。
そうした中で、私たちが事業を進める中で気づいた点、企業の方々が陥っている障害者雇用に関する一般的な誤解など、いくつかご紹介したいと思います。
1.企業の障害者雇用への姿勢
障害者雇用に関する企業の義務の本質について、法人が社会構成員として負担すべき規制(CSR)、ステークホルダーへの説明責任、企業イメージの維持など、いろいろな角度から考えられますが、そうした原則論はさておき、1.8%の法定雇用率を守るために「やらなければいけない以上」障害者をうまく会社の戦力として活用することが求められます。
組織戦略上も、単一性はおそかれはやかれ制度疲労と硬直を招くことが多い一方、多様性を許容する環境こそは企業をダイナミックに揺り動かし発展させていく原動力になります。マイノリティを活用し、彼らが元気に働く姿をみて、周りの従業員も刺激を受け、それが会社を明るい方向に導いていくということは、たとえば知的な障害をもつスタッフを各店舗に受け入れているユニクロ(ファーストリテイリング)などの事例をご覧ください。すばらしい取り組みとして注目を集めています。
反対に、「義務であるから」と受身での取り組みを進めると、人事担当者としても意気があがりませんが、なにより受け入れられた障害者が不幸です。障害を持つ方の離職の原因を私たちが見る限り、?周囲とのコミュニケーションの齟齬による孤立感、?満足な仕事を与えられないことによるストレス、の二つですが、企業の不十分な取り組み姿勢が上記のような点への配慮を怠らせているのは間違いがありません。
前述のユニクロも、トップの号令一下、全社的にその理念が共有されているからこそうまくいっていると聞いています。人事担当者は、まず、経営トップに障害者雇用の理念を説き、理解をしてもらう必要があります。
2.採用の実務
例えば、われわれが障害者採用担当者の下にお伺いすると、だいたい最初に「一般事務ができるような/若い(20代から30代前半の)/できれば女性の」障害者をほしいんだが、という言葉に接します。なるほど、確かにそれはお手軽な方法かもしれません。しかし、こうしたニーズに答えるのは、ハローワークにとっても民間事業者にとってもきわめて難しいですし、各種求人媒体を通じての求人も空振りになるケースが多いです。われわれはこういうリクエストに対しては「そのような人はなかなか出ませんよ」とお答えします。
全国的に(特に東京に関して言えば)、障害者雇用市場は完全な「売り手市場」となっており、企業があまり労力をかけることなく採用できる人材は払底している状況です。そうした人材はたいてい大企業から順次採用されていき、市場にはそのままでは就労がなかなか難しい比較的重度の方々が残っているという状況です。
こうした現実にまず打ちあたることを覚悟しなければいけません。これを超えて障害者雇用を進めるためには、さまざまな障害種類・様態の方を受け入れる覚悟を決めて、彼らにどんな職域が用意できるのか、真剣に検討・模索する必要があります。
3.障害者の職業観
一般的に、障害者は、自身の処遇についての安定性を強く求める方向にあります。私は健常者と障害者双方のキャリアカウンセリングを体験したことがありますが、障害者は健常者以上に、大企業・有名企業・正社員志向が強いのです。
一方、障害者を迎え入れようという企業は当然のことながらそうした大企業ばかりではなく、また契約社員・嘱託社員(準社員)などの形での受入をまず考えています。
そのあたりに、求職と求人の大きなギャップが秘められています。障害者雇用を「施し」と考えて「雇用してやるんだ」という企業は当然に求職者からそっぽを向かれてしまいます。
4.聴覚障害者について
私たちのお客さまは一般的にサービス業やそうでなくても本社機能のオフィスワークの職域としてご用意いただく場合が多いので、コミュニケーション能力(電話を取る、人の話を聞く、など)が必須となります。このため、特に聴覚障害の方の職域が限定される傾向にあります。しかも、聴覚と言語の発達は極めて密接に関連しているため、特に先天的な方の場合、言語能力の発達が不十分なことがあるなど、単純に「聞こえる」「聞こえない」という部分を超えた職業能力上の問題が内在しています。
聴覚障害の方の受入に際して企業の方々が難しさを感じているという背景には、「聞こえない」のであれば、筆談や手話通訳を用いればそれでいい、という思い込みがあるのですが、問題はそれを超えた部分にあります。聴覚障害の方の発育経緯までも含めた各能力への洞察と理解がなければ、職場定着に導くのはきわめて難しいでしょう。
最初に書きましたが、特にこれから本格的に障害者雇用に取り組もうとお考えの担当者様は当然ミネルヴァではありえません。行政(ハローワークや障害者職業センター)、NPO、支援団体、学識者、民間専門家(コンサルティング会社、障害者に特化した人材紹介会社など)などと連携し、試行錯誤しながら少しずつ実績という「武装」を進めていただければと思います。
(2005年03月16日 神谷 学)
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