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本物を探す
執筆者: 森 大哉
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」という映画を御覧になったことがあるだろうか。レオナルド・デカプリオが主人公の小切手偽造犯を、そしてトム・ハンクスがこれを追いかけるFBIエージェントを演ずる。この物語は、1960年代の米国を舞台に起きた実話をモデルにしているそうだ。
主人公は、高校生のときに父親の経済的失敗に直面する。何とか生活しようともがく中で、巨大航空会社パンナムのパイロットに成りすまし、パンナムのペイチェック(給与支払用の小切手)を偽造して金を作ることを思いつく。その後、彼は、あるときは偽医師になり、あるときは偽弁護士となって、詐欺を重ねて大きな財を蓄えていく。社会的ステイタスが高いといわれる職業に巷の人々が抱く憧れと信用を、大変巧妙に利用していくのだ。
彼は、「どうすれば人々が自分を(理由も無く)信用するのか」という一点に的を絞って自分の工夫を練り上げていく。彼の詐欺の技術は、豊かな経験と鋭い洞察、綿密な計画、機転の利いた行動によって裏付けられている。違法な行為と知りつつも、彼がその専門性を蓄え増幅させていく過程は、大変興味深い。映画の後半、彼はもうひとりの主人公であるFBIエージェントに捕らえられる。ところが何とこのエージェントは、彼を小切手詐欺の捜査官に抜擢するのだ。この詐欺師の「専門性」を買ったのである。確かにこの映画には、「本物の偽物」という副題がついている。
さて、時間と空間をはるかに超えて、現代の日本。雇用の流動化が進み、多くの企業が人材を中途採用することで戦力を補強しようとしている。このような求人の中には、特定の職能に秀でた「専門職」を求めるものも多くなってきているようだ。あらゆる資金調達方法に精通した財務パーソン、企業を思いもかけぬ違法性から救うコンプライアンスマネージャー、海外を含むあらゆるサプライヤーを探索して少しでも安い資材を買い付けるバイヤーなどがその例である。
そもそもわが国の大企業では、大学新卒者を採用し、ゼロから育成するという方法を長く取ってきた。そうした会社の社員の中には、ジェネラリストとしての訓練と経験を積んできた人々が多い。いや、ジェネラリストというのは、必ずしも正しくないかもしれない。これらの人々は、自社の仕組みや文化に関するスペシャリストであるとも言える。長い会社人生の中で、いくつかの違う職場を経験し、会社独自の共通言語と、暗黙のルールを学び、その会社における、組織の正しい動かし方を勉強するわけである。
会社が対象とするマーケットが国内市場に限られ、買い手の顔が見えて、決められたルールの中で経営していく環境においては、ジェネラリストがいれば大体のことには判断が及ぶ。だから、これまでのような方法がうまくいったのかもしれない。だが、マーケットが海外に広がり、買い手の嗜好が多様化し、経済がグローバル化し、ITが進歩し、規制が緩和されて「何でもあり」の環境になると、意思決定がどんどん複雑化してくる。こうなると、ある一定の領域で極めて専門性の高い人物に会社経営の重要な側面を任せる、ということが多くなってくる。
これからの会社経営には、多様な専門家の集団をうまく組織して、正しい意思決定をする技術が、非常に重要になってくるのではないだろうか。そして実際に多くの会社が、このようなスペシャリスト達を即戦力として労働市場に求めているのだ。
さて、これだけ雇用が流動化し、労働市場に人があふれているならば、何らかのデータベースに登録された人材を当たっていけば、比較的簡単に求める人材に出会える、と思う人事担当者も多いだろう。しかし、コトはそれほど簡単ではないのだ。労働市場に出てきつつある人材には、前述の「自社スペシャリスト養成モデル」によって育てられた「ジェネラリスト」が多く、求めるような専門家はまだ希少なのである。
人の採用は大きな投資である。思い通りの人でないからといって、直ちに辞めてもらって次の人を探すなどということはできない。大事な戦力を中途採用するならば、必ず「本物」に出会いたいものだ。一定の職能領域に的を絞り、会社の枠にとらわれずに自らの工夫をその一点に集中して、立派に知見を蓄積してきた本物の人材。そのような人に出会おうとすれば、まさに「金のわらじを履いて」探す努力が必要になるだろう。Catch Them If You Can.
(2004年02月24日 森 大哉)
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