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サイバーコロシアム
執筆者:安藤 浩平
ゲーム業界のある会社から、転進制度について相談を受けたことがある。この会社はテレビゲームや携帯電話のゲームの開発を手掛けているのだが、40代になると技術や知識が古くなってしまうそうだ。とりわけ技術者にその傾向が強く、技術者たちはゲームを作ることが好きでやっている人たちなので、管理職になる気は全くない。会社としても、この人たちに多様な能力を求めてはいない。その代わり、強い成果主義を敷いており、成果によって相当なインセンティブを支払うシステムになっている。その時の相談は40歳になったら社外に転出してもらう制度を考えたい、という趣旨であった。
ゲーム業界、特に携帯電話向けのゲーム製作会社などでは、近年、若年のゲーム製作技術者を高額で集めている。ある会社では技術を持った能力のある新卒者を年収1500万円で採用するという記事が新聞に載っていて驚いた。今、この業界は急成長をしており、覇権をかけ熾烈な業界シェアの獲得競争を行っている。国内シェアであれば、飽和状態になるまで、おそらくここ数年が勝負とみているのだろう。
このように集められた技術者は、おそらく10年くらいするともうその技術や知識、そして感性は古いものとなってしまう。そして40歳くらいになると次の世代の技術にとってかわることになる。実際、このような業界では、40歳で転進制度、つまり優遇した条件をつけますから社外に出ませんか、という制度を導入しているところがある。通常の転進制度は、40代以上の年齢層に余剰が多く、人件費の高騰を招くことが予想される場合に、40代後半から50代の年齢層に適用することが多い。このように、早い時期の導入を検討することは少ない。この業界の人的フローのサイクルがいかに早いかが分かる。このような技術者の場合、まずマネージメントには向いていないし、他の訓練は受けていないから転進してからどうするのだろうと心配になってしまう。短期勝負と割り切り、自分の技術が生かせるうちに稼いでしまおうとするならよいが、転進後の人生を不本意に送ることがないように祈りたい。
電車に乗っていると、十人に一人くらいは携帯電話を使ってゲームに興じている。80年代くらいからであろうかテレビゲームが大ブームになり、若者から30代くらいまで、多くの人が夢中になって興じていた。そのゲームの中に、ストーリー性を持ったロールプレーイングというものがあり、戦国時代や古代ヨーロッパの戦争もの、果ては超人的な剣闘士が登場して空想の怪物や敵と戦うものに人気がある。このゲームにはまると、皆、夢中になるらしく、夜更かしをして次の日に眠い目をこすりながら出社するようなことが頻繁した。私のような年齢の者から見ると、どうしてそこまで夢中になるのかなと思ったり、膨大な時間を費やしていったい何が生み出されるのだろう、などと余計なことを考えてしまう。
古代ローマでは、巨大なコロシアムで、鍛え抜かれた剣闘士がライオンなどと戦い、ローマ市民がそれに熱狂した。剣闘士の戦いを運営するには、コロシアムの建設や、剣闘士の育成、それからライオンをアフリカから持ってきて飼っていなければならない。おそらく古代ローマは膨大な経費がかかったことだろう。ゲーム業界では、新しいゲームの開発、技術者の囲い込みと膨大な経費がかかっているが、それを上回る売り上げとお金が動いている。そして、ローマ帝国における巨大なコロシアムは、電脳の世界では無限の空間となっている。電車の中でゲームに興じている人たちを見、家で夜な夜なロールプレーイングに興じる人たちを思うと、私の頭の中には、古代ローマのコロシアムの喧騒が浮かんでくる。古代ローマは、領土が広がりすぎて、その巨大さゆえに亡んでいった。その過程では、スパルタクスに率いられた剣闘士の反乱に苦しめられたが、現代の電脳の世界では、剣闘士が飛び出してきて反乱を起こすことはない。
(2012年01月19日 安藤 浩平)
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