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ベテランフォーメーション
執筆者: 森 大哉

 会社が人事制度を刷新しようとするとき、多くの会社では、さまざまな部門から人を集めて「新人事制度検討プロジェクトチーム」を編成します。このようなとき、「会社の将来を託する重要なプロジェクトなのだから、それに相応しいメンバーで編成しよう」と考え、若手管理職や管理職手前くらいの社員を中心にプロジェクトメンバーを選ぶことがよくあります。

 
 ある会社では、これとは正反対のチーム編成を行いました。7人のプロジェクトメンバーのうち3人はすでに定年を過ぎた嘱託社員、のこりの4人のうち50代前半の人事部長を除くとあとは定年間近のベテラン社員なのです。それぞれ過去には現場で腕を鳴らしたトッププレーヤーたちで、今では本社にいて後進の指導に当たられています。そして、この人事制度改革プロジェクトのメンバーとして活躍されることになったのです。


 冒頭に述べたような考え方からすると、良い人選とは思えません。将来の会社を託する重要なプロジェクトに、間もなく会社を離れる社員を当てるわけですから、ほんとうに真剣に考えてくれるのか、よい制度を作ってくれるのか、心配になるところです。ところが、このチームは大きな威力を発揮しました。まず、メンバーの誰もが会社の仕事のすみずみまで知っていたことです。仕事のやり方だけでなく、その良いところと悪いところまで把握していました。次に、会社の歴史をよく承知しており、その延長線上で何を実行していけばよいか、それぞれが極めて現実的な意見を持っていました。また、他の社員の尊敬を得ていたことも力の要素でした。立派な実績に裏付けられたベテラン社員ですから、管理職の人々に対して制度の説明をするにも迫力と説得力がありました。おまけに、メンバーのひとりは社長と同期の桜です。制度の案を説明したあと、「いいから黙ってハンコ押せよ」と冗談まじりに言うほどの関係でした。


 そして、何よりもその会社の人事制度改革を推進した力は、プロジェクトメンバーの人々の、次世代を育てようとする熱意でした。どんな評価の仕組みを作れば人が育つのか、どんな報酬の仕組みにすればキーマンとなるような社員をより強く動機付けることができるのか、プロジェクトメンバーの誰もが真剣に考えました。プロジェクトミーティングの中では、「おれたちにはもう関係ないから適当でよいだろう」とか、「この手当を廃止すると年寄りに冷たくなるから残しておこう」などと冗談を飛ばしていましたが、実際には、われわれシニア層の社員でも会社の将来に貢献できるのだという喜びをもって、志高くプロジェクトの業務に当たられました。むしろ、この仕事は自分たちの経験知識をいかすべき仕事であって若い人には任せられない、といった覇気や使命感すら感じました。


 心配事もありました。ひとつはこれまで慣れ親しんだシステムを大きく変えることに強い抵抗があるのではないかということ。もうひとつは、変化していく若者の意識や働く環境を実感として理解されないのではないかということです。しかし、このどちらも杞憂でした。むしろ、現代の人事制度のトレンドをそれぞれが虚心坦懐に勉強されましたし、能力伸長や成果報酬ということを正面から見据え、現制度の甘いところをきちんと修正していきました。最終的には人事部だけで企画するよりドラスティックなものが出来上がったのではないかと思えます。


 ベテラン社員の経験を活かす、というと、今起きている問題を老獪な手練手管で解決するところを想像しがちです。しかしながら実は「来し方」を知る人だからこそ「行く末」を現実的に考える力がある、というところに着眼すべきだと思います。この意味では、会社の将来を託するようなプロジェクトにこそ、ベテランの知恵を借りるべきであるといえます。高齢のベテラン社員は、このように、会社の中長期課題の解決のためにも、相当のポテンシャルを持っているといえます。これをうまく引き出して活用することは、これからの人事部に求められる大きな課題です。



(2011年12月21日 森 大哉

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