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徳さんの「やる気」
執筆者: 森 大哉

 よく知っている会社に、長く管理部門の仕事をされてきた60歳の役員さんがいます。「もう引退したいが、後を引き受けてくれる人を育ててこなかったから、なかなか引退できん」と、最近さかんに嘆息しています。まだ引退されるにはお若いでしょう、と言うと、いやいや、もう気力も体力も限界です、と話していました。
 他方、同じ会社に、「徳さん」と呼ばれるベテランの社員がいます。今は、関西地区の小規模顧客を対象とする販売子会社の社長をしています。徳さんは、20年くらい関西地区の営業マンとして頑張ったあと、60歳でこの販売子会社の社長になりました。そして、もうすぐ67歳になろうとするこの御仁が、こんどは首都圏市場を対象とする同様の会社の社長を兼任するというのです。さきほどの役員さんより七つ年上ですが、引退どころか職域を広げるほどの頑張りようです。


 我国では社会全体の高齢化が世界に類をみない勢いで進んでいます。年金の支給開始年齢は確実に上がっていくでしょう。「みんなが70歳まで働く」社会は、目の前の現実になってきています。徳さんのようなビジネスマンが数多く活躍するためには、どんなことが必要なのでしょうか。


 「徳さん、東京もやるとなると毎週の移動が大変ですね。もう70の声聞いて、体力は大丈夫ですか?」と尋ねると、「この仕事、好きやから、あまり苦になりまへんねん」と答えます。
 徳さんは、実際、営業の仕事が大好きです。特に、徳さんは、経営は苦しいが先々成長の期待ができる会社を見つけ出すのが大変うまい。こうした会社を見つけると、売上代金の支払いサイトを少し長くしてあげたり、お客さんを紹介してあげたり、あの手この手で再建を手伝います。徳さんに世話になってよみがえった会社は、もう徳さんを裏切りません。余程のことがない限り、発注先は徳さんの会社に決まりです。


 徳さんは、心身ともに健康で仕事を続けられるのは、「自分はこの仕事が好きや、ということを自分でよく知っていること」と、「(親会社の)社長が、好きなようにやらせてくれること」のふたつがそろっているからや、と言っていました。「もともとこの商売は、貸し倒れの多い商売ですねん。会社も信用管理は特別うるさく言うてます。でも、私が『○○工務店、支援しまっせ、責任はとります』というと、(親会社の)社長はたいてい『徳さんが言うならどうぞ』と許してくれるんです。」
徳さんが得意げに「自分流」を説明するのを聞いていると、真にやりたいと思うことを自分なりのやり方とペースでできるようにしてあげる、というのが、シニアな人々に長く活躍してもらうための重要な鍵なのではないかと思います。


 皆が70歳まで働く社会は、すぐそこまで来ています。それは、高齢の人々を労働力としてある程度頼りにしなければならない社会です。高齢で働く人の「やる気」は、徳さんのように、自分の中に育ててきた価値を意識することに立脚すると思われます。ですから、会社としては、定年前の一定のタイミングで、社員が自らのキャリアを振り返ったり、自分の価値を問い直したりするような機会を与えることが必要です。また、考えた結果、高い意欲で働こうとする社員に対しては、働きやすい環境を用意する必要があります。物理的なことだけでなく、きちんとミッションを明らかにして権限を与えるようなことも重要です。このようなことを通して、我と思わん高齢社員を積極的に戦力化していくことが、これからの人事マネジメントに求められるのではないでしょうか。



(2011年12月14日 森 大哉

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