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最高益でのリストラ
執筆者:林 明文

 多くのリストラクチャリングのコンサルティングに関与してきましたが、この案件は非常に特徴的な案件でした。X社は欧州に本社がある機械部品の製造業の日本法人です。日本に進出してすでに40年以上になりますが、高い技術力ときめ細かいアフターサービスで非常に強い競合優位性をもっています。長年堅調に業績は推移してきましたが、特にこの年は業績が非常に好調で、設立以来の最高の利益を計上する予定です。高い競合優位性のある外資系の法人でしたので、社員の給与も高いレベルでした。課長クラスで1200万円、部長クラスで1500万円くらいであり、他の競合会社の給与レベルに比較してもかなり高いレベルです。高い技術レベルと日本における業界トップの営業力で、社員の生産性は非常に高く、そのため社員の給与レベルも高くしてきました。高い給与はさらに高い生産性向上を刺激し、この数年間は会社の中も明るく非常に活気ある状態でした。


 この日本法人が最高益を出した年、逆に欧州を含む他国の主要な法人は業績が悪化しました。グループ全体では大幅な赤字となってしまうということです。またこの業績の低下傾向は今後数年間続くことが予想されました。そのため本社としてはこの危機的状況を打開するために様々な施策を計画し、本社ももちろん各国の子会社に早急なる実施を要求します。生産拠点の統廃合、生産ラインの更なる機械化合理化、様々なコストカット、さらには社員数の一律30%削減を実施することが盛り込まれていました。この30%削減は各国子会社の個別の状況や損益などは全く斟酌せず、とにかく各国一律30%の人員削減を実施せよという極めて異例の施策です。X社ではこの本社からの指示に対して非常に戸惑います。過去最高益の会社で30%もの人員を削減することが現実的でありませんし、また業績好調で社員が不足気味だからです。X社の管理担当副社長は直ちに欧州本社へ陳情に飛びます。副社長の陳情は、各国の状況を踏まえての人員削減であるべきで特に日本はグループの損益に大きく貢献しており、過去最高益で今後も高い利益が見込めるため、無駄なコストのカットには最大限努力はするものの人員削減はするべきではないというものでした。欧州本社の返答ははっきりしたもので、各国一律削減の方針の変更は一切ないというものでした。また本社へ陳情に来た副社長は、本社役員の逆鱗に触れ直ちに解任となりました。さらには日本法人へ本社からお目付け役の役員を急遽派遣することになります。日本法人にこの経営施策をしっかりと実施させるためです。


 X社は本社のある意味理不尽な方針を受け入れざるを得ないと判断し、人員削減の準備に入ります。このリストラを発表する前までは日本法人では、非常に明るく活気がありました。しかし当時の社長はリストラ実施を発表しなければなりません。そもそも高い給与レベルでありモチベーションも高い中で、30%もの社員を削減することを納得させることがなかなかできません。社内ではこの話が方針として正式に発表されてから、自助努力でどうすることもできない無力さと、この状況で30%もの社員の削減をしなければならない理不尽さで議論が紛糾します。しかしどんなに議論しても最終的には本社の意向に背くことができない構造の中で、奇妙な希望退職がスタートすることになりました。


 希望退職で30%もの人員を削減するのですから、退職条件をかなり高額にしなければなりません。一般的には業績低下により人事制度の変更なども行い、希望退職の割増退職金をできるだけ低くしますが、X社の場合には人事制度変更の時間的余裕もない中で、多くの退職者を募集しなければならないため、非常に高レベルの割増退職金の支給を行うことにしました。私はこの人員削減プロジェクトにコンサルタントとして参画していましたが、50歳の社員で月給の100ヶ月を超える退職条件を提示しなければ多くの退職者の応募ができないと判断しました。様々な検討やシミュレーションの結果、最終的には当社提案の原案通りで実施することになりました。


 希望退職では単に退職条件を提示するだけでなく、今後の経営方針や経営計画の発表や今回の人員削減の目的なども社員に明示しなくてはうまく結果が出ません。そのため一部の優秀な社員に対しては慰留し一部の優秀でない社員に退職を勧めるなどの面談を実施します。X社でもこのような面談を実施しましたが、そもそも外圧による理不尽な人員削減でもあり、面談もスムースにいきません。しかし希望退職は募集開始後1ヶ月の期間を応募期間と予定していましたが3週間で予定の30%に達することができました。


 退職者の中にはこのような人員削減を実施する会社に対する嫌気から退職する社員も多く含まれていました。また単純にきわめて高額な割増退職金が魅力で応募する社員もいました。多くの人員削減のプロジェクトに関与してきましたが、退職するか否かは経営方針・計画の魅力と同時に経済的な条件で決定されていると実感します。100ヶ月というと常識外と思われますがどう計算しても理論的には正しい水準でした。他に例のない高条件での希望退職には正直私も100%の自信はありませんでしたが、理論的な正しさからの判断からこの異常とも思える案を提示し実行しました。このようなリストラに対する価値観としての議論はしませんが、テクニック、理論としてのリストラの手法は非常に合理的に判断するべきものであるということを再認識した案件でした。



(2011年12月12日 林 明文

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