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何故日本人は転職しない?
執筆者:桑原 由紀子
香港のコンサルティング会社で働いていた頃のことです。同僚の香港人コンサルタント(仮にAさんとします)と日本人コンサルタント(同Bさん)が雑談をしていて、香港人は転職回数が多いという話題になりました。そこでBさんが「何故香港人はそんなに転職するの?」と聞いたところ、Aさんは逆に質問してきました。「じゃあ聞くけど、何故日本人は転職しないんだ?」と。
Bさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていました。そんなことを聞かれるとも思わなかったし、そもそもそんなことを考えた事もなかったのでしょう。
Aさんは続けます。「例えば私たち社員は水槽にいる魚だとします。水槽には最初はエサが沢山あります。でもずっと同じ水槽にいると、当然エサはなくなってきます。エサがなくなるのであれば、別の水槽に移るしかないじゃないですか。ずっと同じ水槽に居続ける理由はなんなのですか」 Aさんの言う水槽というのは会社で、エサというのは満足いくサラリーであり、ポジションであり、自身のキャリアアップの可能性なのです。
香港は完全な職務主義で、営業はずっと営業畑、経理はずっと経理畑を歩むといった具合です。人事異動はあっても職務転換するような異動は極めて稀です(職務転換を強いると、雇用契約違反とみなされかねません)。そして今勤めている会社に自分の職務の上位ポジションがない(空きがない)、或いはこれ以上学べる事がないと判断した場合、彼らは別の会社にそれを求めます。またキャリア・チェンジをする場合も、会社を変えることによって実現させます。そんな彼らにとってみれば、新卒で入社し定年まで約40年間同じ会社に勤めるというのは異常な感覚でしかないのでしょう。
一方、日本ではジョブ・ローテーションがあり、色々な部署で経験を積んでゆき、やがて管理職になっていくというのが一般的です。ゆえに、例えば今経理部門にいるからといって、必ず経理部門の課長になるということではなく、どの部門の課長になるかは分からないので、今配属されている部門の上位ポジションが塞がっているからといって、すぐさま転職を考えることはありません。またジョブ・ローテーションそのものが、先ほどの水槽の例でいくと、違う種類のエサが適宜水槽に供給されているといった感じでしょうか。
しかしながら、現在多くの日本企業、特に大手企業はポスト不足による管理職余剰、そのことによる若年層の閉塞感といった問題を抱えています。また、近年では労働市場が発達してきており、キャリアアップを図るための転職も全然珍しい事ではなくなってきました。今はまだ「何故転職しない?」と聞かれてキョトンとする日本人のほうが多いかもしれませんが、そのような、会社側にとってありがたい状況は長くは続かないように思います。日本企業も、優秀な人材はどんどん別の水槽に移り、気がつけば活気のない魚だけの淀んだ水槽になっている、といった状況を回避するために、常に水槽に新鮮なエサを供給し続けることが求められてきているのではないかと思います。
(2011年12月07日 桑原 由紀子)
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