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経営者に天才はいるか
執筆者:林 明文
自社の経営状況や環境を十分に把握していないのですが、自分では最高の経営をしていると思い込んでいる社長にごく稀に遭遇します。自分では自社の状況を誰よりも深く本質的に理解していると思っています。しかし、経営や社員への状況認識が主観的であったり、非合理的であったり、偏った情報源からの不正確、網羅的でない情報からの判断であり、我々のような外部者からみるとずいぶん歪な状況把握だと感じます。このような経営者は確かに過去の成功体験に基づき今の地位がありますので、経営の現状に対しては一つの見解の正しさはあろうかと思います。しかし、過去の成功体験や地位や身分に対する自己への過大な評価から、認識や判断が狂ってくるのでしょう。自己の見解と異なる他の見方に対しては否定的攻撃的な反応をする人物パターンが多いように感じます。簡単にいえば他の人の意見を聞かないということです。他の意見を聞くことで自分の認識が変わることが、自分の能力や人格、地位に対する否定のように思えるのではないでしょうか。このような裸の王様的タイプの経営者と話をするのは、議論としてのレベルは非常に低く、双方にとってもったいない時間となってしまいます。自分の感覚で形成した方針や計画を達成するための一方的な意見が主で、他の状況分析や施策については基本的に否定的ですので、場の雰囲気も決して明るくはありません。
このような企業では、経営者との会議の後に心ある他の役員や経営幹部と話をすると、とてもバツのわるそうな顔をします。経営トップと他の役員や経営幹部との距離が実際には大きくあり、納得していない方針や計画を議論できずに命令されるという感覚です。他の役員や経営幹部は十分にその方針計画を理解していない、ないしは賛同していないために、仮に経営トップの提示した経営施策を実行しようとしても、実行段階での迫力が全くありません。営業成績が上がらない、魅力的な新商品が開発できない、内部問題が解消できないなど、経営トップが認識しているイメージと異なる結果が出てしまします。方針と計画と実行が一貫していないということです。
上場している企業などではこのような経営者が現れると、その企業にとっては不幸と言わざるを得ないでしょう。一般的な傾向としてこのような経営者は長くその地位にとどまることはありません。実現できない方針計画を掲げ毎年未達であり、その見達の原因が方針計画を理解しない部下に問題があると思っています。しかし、実際にはそもそもの方針計画や人物的魅力を含めたリーダーシップに問題があるということであり、しだいに金融機関や親会社、株主などからの外圧で退場していくことになります。
退場するまでは、このような勘違いした経営トップを抱える企業は不幸と言わざるを得ません。社長の経営方針を十分に共有できずに、数字目標を提示されます。達成できないと実行側の原因と追究されます。そうだからと言って方針計画に対して意見を申しても、プライドが邪魔をして本質的な議論になりません。平時においてこのような経営者が登場しても短期的にあまり大きな問題にはなりません。しかし、環境変化が激しい中では経営方針や計画、実行に対する革新性やスピードが求められます。これを実現するためには経営方針・計画の末端までの浸透と共感が必要です。大きな環境変化が継続する中で企業が常に活力ある状態にするには、情報共有が必須であると同時にフラットな組織、適正で迅速な意思決定が必須です。激変時におけるリーダーとは、独断で独創的なことを発想して指示する人ではなく、発想の独自性は重要でありつつも組織的活動を促進できることが重要ですので、個人としての発想力とともに共有する力、共感を促す力が必須になります。
一人の経営者が革新的な方針や計画を策定することなどは非常にまれであり、換言すれば、経営に天才は存在しないことを前提にしなければならないということです。高度に情報化が発達した社会の中での新たなリーダーは、革新的な方針や計画を決定できる能力や度量とその方針計画を組織として実行できることが、必要な能力となってきています。ひとりの経営者の能力に依存する時代ではなくなってきているということではないでしょうか。
(2011年11月28日 林 明文)
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