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ストレッサー
執筆者: 森 大哉

仕事帰りの通勤電車の中では、職場の同僚と思われる人たちがさかんに仕事や職場環境について談義をしています。「うちの職場はエアコンが効かなくて、蒸し暑くてストレスがたまるよ」、「うちの部のだらだら長い会議はまったくストレスの元だな」「課長がちゃんと方針出さないからみんなストレスいっぱいだよ」などなど。心理的ストレスから来る心身の変調は、どの会社でも大きな問題になっています。しかし、電車談義のサラリーマンたちの表情は、話題のわりには明るく、元気そうに見えます。どの「ストレス」がほんとうの問題児なのでしょうか。


ストレス状態は、おおざっぱに言ってふたつほどあるように思われます。ひとつは先の予想がつかなくて将来が不安である状態、もうひとつは大変孤独で他人に頼ったり相談したりできない状態です。これが両方重なると、かなり悪いストレス状態になると思われます。


たとえば、厳しい売上のノルマを与えられて、何をどうすれば目標達成できるのかわからず、また達成できなかった場合に自分の身分はどうなるのかもよくわからない状態。おまけに職場の仲間は自分のノルマのことで頭がいっぱいで、誰も相談に乗ってくれない状態などがこれに当たります。5〜6月に新入社員がよく辞めるのは、任された仕事が想定と違い、これから何が起こるのか予測できず、加えて、まだ人間関係のできていない職場で強い孤独を感じているからかもしれません。


仕事の場面でなくても同じようなことが起こります。高齢者の人で、体力が著しく衰え、これから先、自分がどれだけ健康でいられるかわからない。かといって助けてくれたり悩みを聞いてくれたりするような仲間がそばにいない状態。また、日本に来たばかりの留学生が、言語、習慣が異なる中で、これからちゃんと暮らしていけるかわからず、他方、留学生仲間や親身になって面倒を見てくれる人がひとりもいない、など。そんな例を挙げればきりがありません。


ストレス状態に関するこのような仮説が正しいとすると、社員のひとりひとりが「先が読めない状態」と「孤独な状態」に陥らぬよう配慮してあげましょう、というのが結論になりそうです。しかし、現実はそれほどやさしくありません。まず、世の中全体が、先が読めない状態です。地球の裏側の手の届かないところで先週起きた事件が、今週のわが製品の売れ行きに影響するようなことがあります。また、会社の組織はおおかれ少なかれスリム化が進み、無駄が省かれ、ひとりひとりに成果が求められる時代です。大勢の人が集まって相談しながらひとつのことを進めるような贅沢な環境は、作りたくても作れないというのが現実ではないでしょうか。


そうなってくると、あとは経営者、管理者が頼りです。先が読めなかろうと、相談相手がいなかろうと、きっちり方針を出して、社員や部下の不安定感を払拭する、当然ながら本人がストレスにやられるようなことはまったくない、そのような強靭さが、企業のリーダーたちには、以前に増して求められているのではないでしょうか。そういうリーダーが増えていけば、ストレスという言葉の裏にある深刻な響きは薄れていき、通勤電車の中は、引き続きエアコンの修理談義で賑やかに終始することでしょう。



(2010年07月20日 森 大哉

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