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信号とスピード
執筆者:林 明文

日本人にとって法令を遵守するという意識はどこまで強いのでしょうか。たとえば車の運転で信号を守ることが普通と思っていますが、他国に比較するとかなり強い遵守意識があります。そうかと思えば車の法定速度を守る車などはほとんどなく、意識も非常に低いといわざるを得ません。そもそも法定速度の決定基準がおかしいのかもしれませんが、都内の幹線道路などは40キロ程度が法定速度です。厳格に守ろうとしている一般のドライバーはまずいないでしょう。信号を守ることは遵守しても速度制限を守ることは遵守しなくてもよいという解釈です。法律の条文をそのまま遵守するのではなく、世間の常識によって判断を微妙に変えているということでしょうか。


最近では大相撲の賭博問題が大きく取り上げられています。野球賭博に始まり、花札や賭ゴルフなども問題の対象となっています。この問題は賭博そのもの自体が違法であり問題であることと、野球賭博に反社会的組織の関与があることの問題です。このうち賭博そのものについての違法性については、世間的にどこまで厳格に守られているかが大いに疑問です。そのため特に小さな金額の賭博(いくらが小さいかがあいまいですが・・・)についてはあまり問題ではないということでしょう。


最近企業ではコンプラを強化し経営方針レベルまで謳っている例も多くあります。法令遵守は当然のことであり経営方針に謳わずとも会社組織であれば当然のことではないでしょうか。いままで法令を遵守してこなかったということをあえて表明しているかのようにも見えます。


ある会社で管理職に対するコンプライアンスの研修を実施しました。冒頭、管理担当の役員が研修の趣旨を話すことになっていましたが、研修開始時間になっても会場に現れません。研修に遅れそうになったので、社用車の運転手に急げと言ったそうです。(正確には“もっとぶっ飛ばせ”だそうです)しかし、その車は研修に間に合うことはありませんでした。スピード違反で警察に捕まったからです。30分後管理担当役員は研修会場に到着しました。研修担当者は一部進行を変更して、管理担当役員に研修の趣旨の話をしてもらったそうです。管理担当役員の話は実によい話だったそうです。企業としてまたビジネスマンとしていかに法令遵守が重要であるかという内容です。日本人の微妙な法令遵守意識という意味で象徴する話のように思えます。


人事管理の中でも非常に悩ましい同じような問題があります。代表的なのは、超過勤務手当の問題です。法律上は管理監督者以外は、所定時間を超過した勤務については超過勤務手当を支給しなくてはなりません。この超過勤務手当について企業としての姿勢は微妙なものがあります。法律上からは超過勤務時間全部に対して支給することが必要であるとわかっていながら、すべてを支給することに躊躇し、巧みな制限をかけます。これは超過勤務手当が増額することで経営を圧迫したくないということと、社員の超過勤務がすべて手当を支払う価値がないと思っていたり、もっと単純には非管理職が多くの超過勤務手当をつけることによって、管理職の給与を逆転しないようにしたい、などという理由からです。この問題に対するクライアントからの要望は非常に微妙です。外形的に法令は守りつつ、人件費は増額しないようにしたいというのが本音の会社が多いと思います。しかし実務的にはいろいろ矛盾したり正確には軽度な法令違反であることが多いのが実体です。


信号は守るが、スピードは守らないのか、信号もスピードも駐停車も徹底して守るのか、まだまだ企業のコンプラ問題はスタートしたばかりだと思います。
以上



(2010年07月05日 林 明文

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