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切腹
執筆者:林 明文
“腹を切る”というのは昔の日本人の究極の責任の取り方です。自分が取った行動に対して、自分の命を絶つということで責任を取るということです。自らの命を絶つくらいの責任ですので、周りに対して深刻な影響を与える重い責任です。切腹が非常に野蛮な行為であると同時に、日本人の責任の取り方という観点で潔い行為とも捉えられています。最も潔いとされているのは、周囲が感じると思われる責任に対して自らが自主的に責任を取ることでしょう。自主的に判断するということと、周囲の感じる責任より自分が感じる責任のほうが大きいこと、適度なタイミングであることになります。逆に言いますと、潔い責任の取り方とは、周囲が感じるよりも自分の責任感が強く、しかも周りから責任を取れと言われない、また切腹に値するか否かを周りから言われないで自分が判断し、しかもタイミングが遅くないということです。
最近では経済環境悪化の背景でリストラを行う企業が多くあります。経営の方針や計画が達成できずに、企業の再構築を行うということですが、このリストラに対する経営者の責任の取り方は企業によってさまざまです。一口にリストラといっても、単にビジネスのモデルを転換したり進化させるといったものから、社員の給与を削減したり、大規模な人員削減を行うなど深刻さはさまざまです。また、リストラを越えて存続困難な企業が倒産するようなこともあります。リストラにより顧客、取引先、社員、株主といったステークホルダーに対しての損害度合いに応じて責任の度合いが異なるということです。リストラを行い企業が新たな成長のステージに移行する際に、この責任の取り方がステークホルダーに対する影響という意味で極めて重要となります。特に過去の経営に問題がありステークホルダーに大きな損害が発生する場合は、重度の責任でしょうから、経営者自ら身を処さなければなりません。
最近経営者の責任の取り方が以前に比較して変化してきたと感じます。バブル崩壊後のリストラブーム時では、社員の削減を行う場合などは過去の経営責任をとるということで自ら退任する経営者が多かったと思います。過去の経営で枢要な地位の役員が“腹を切る“ことで、経営陣が率先して新たな経営を推進するということです。”腹を切る“役員は自ら人員削減などのリストラ施策を判断し指揮し完遂した後に自ら退任するのが一般的で、周囲も”潔し“としました。最近はこのような感覚の企業も多くありますが、驚くほどドライな、また驚くほど鈍感な企業も散見されます。”腹を切る“感覚と異質なものを感じるということです。経営者としてのマインドやスキルが十分であるか疑問な場面が以前より多くなったと感じます。
日本の企業の人事管理で最も議論しなければならないのは、役員人事制度であると感じることも多くあります。人事関連の主要な議論は社員に対するものです。社員の処遇や育成についてはさまざまな考え方や理論や手法が論じられています。今後も社員に対する人事管理レベルも飛躍的に発達させる必要はあります。しかしリストラ時の責任の取り方などを見ると、役員に対しての人事管理や育成が根幹の課題ではないかと思います。
(2010年06月15日 林 明文)
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