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人は石垣、人は城
執筆者: 森 大哉

「人は石垣、人は城」というのは、武田信玄の考えとして甲陽軍艦(武田信玄の戦略や戦術をまとめた軍学書)に残されたことばであり、「戦の勝敗を決するのは堅牢な石垣や城ではなく、人の力である」というほどの意味だ。


中国人の留学生と話をしていて、この言葉を知っていたのには感心した。「日本人はほんとうに人の力というものを信じ、大切にするのですね。」ビジネスを専門に勉強している学生なのに、留学先の国の歴史までほんとうによく勉強している。


「人が石垣であり城であるというなら、人は会社にとって大切な資産なのですね。だとすれば人の価値は資産として貸借対照表の左側に計上すべきではないでしょうか。よい人材資産をもっている会社か、そうでない会社かということは、投資家から見るととても重要なことがらだと思います。」・・さらに驚いた。専門領域でも勉強家である彼は、歴史の本と財務諸表論の教科書とを結びつけてしまった。


「人は石垣、人は城」という言葉を、われわれは、「・・だから人材のひとりひとりに敬意を払い、心から大切にしなければならない」と、若干情緒的にとらえがちだが、この学生は、「人は企業価値を生み出す資産である」というポイントに焦点を当てた。


もとより会社の従業員は会社の所有権が及ぶ対象ではないから、資産に計上することは当たらない。仮に計上しようと思っても、その価値をどう算定するのか、適当な方法が見つからない。しかし、考えてみると、投資家の立場としては会社がどのような人材を何人擁し、どんな配置をしているのか、それぞれの人材がどのようなパフォーマンスをあげているのか知りたいところだろう。良い例えとはいえないが、土地、建物、機械設備などの資産をどのような組み合わせで所有しているか、資産効率をどのようにして最大化しているか、ということを知ろうとするのに似てはいないか。


環境の変化や会社の意図によっては、資産の持ち方が変わる。同じように、環境変化や会社の意図によって、人材の組み合わせも最適化していかねばならない。そこには、前向きな意味での人材リストラクチャリングが必要であり、積極的な教育訓練が必要であり、ときには、人材獲得を目的としたM&Aが必要となるかもしれない。


そして、われわれは常に資産回転期間が適切であるかを検証し、資産に故障や劣化が無いかチェックし、新しい設備投資は必要ないか、遊休資産はないか、と目を光らせる。同じように、必要とする職種・能力水準の人が必要数雇用され、正しく配置されているか、また、それらの人々は健康で、十分に力を発揮しているかを、われわれは常にチェックしなければならないだろう。


いうまでもなく、人と物的な資産は全く違う。人材は会社の都合で安易に入れ替えることはできない、他方、会社意に反して人材が社外に流出してしまう場合もある。人材は育ち、その能力を進化させる。人材はその心身の健康の状態によりパフォーマンスに変化を来たす。明らかに「もの」にたとえるのは適切でない。しかし、人材を会社の重要な資産と擬制し、「人のROA」のようなものを考えていくことは、ある意味で必要なことかも知れない。


ところで、全くの蛇足だが、中国にも「人材のひとりひとりに敬意を払い、心から大切にしなければならない」という趣旨の故事はあるそうだ。



(2010年05月27日 森 大哉

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