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人を動かす
執筆者:南保 香織

これまでに一度でも人事に携わった事がある方であれば、このフレーズを一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。D・カーネギーの有名な著書の題名です。
私自身は十数年人事に携わっておりますが、この著書は、私が人事業務にやりがいを感じることができなかった入社2〜3年目の頃に、上司から送られた一冊です。
当時、人事とはいえ事務スタッフにしか過ぎなかった自分が手に取ったこの一冊の著書は、それからの私の人生を大きく変えたといっても過言ではありません。「人を動かす」ことに興味を覚え、コンサルタントを志望するまでに至ったのは、紛れもなくこの著書との出会いがあったからこそと思っています。
この著書を初めて読んでから既に10年弱の歳月が経過しましたが、今もって「人を動かす」難しさと面白さに取り付かれて止みません。

さて、著書の中で、D.カーネギーは人を動かす3原則として次のように述べています。
1.盗人にも五分の理を認める
2.重要感を持たせる
3.人の立場に身を置く
 この3原則については、私自身共感する部分が多々あり、著書を読むとなるほどと思わせられます。同様に共感できる方も多いのではないでしょうか。
 しかし、ここでは企業における「人を動かす」方法に限定して考えてみたいと思います。
企業における「人を動かす」3原則として以下があると考えています。
1.人の心を捉えること(=「リーダーシップ」)
2.適切な役割を与えること(=「適材配置」)
3.適正な処遇を行うこと(=「モチベーションを高める仕組み」)
 「リーダーシップ」は、求心力をもって人を統率することです。
古くは、高度成長期の日本経済を支えた大企業の創始者である、旧松下電器産業の故松下幸之助氏や本田技研工業の故本田宗一郎氏が、強いリーダーシップを発揮した経営者の代名詞として上げられます。彼らが経営者として(時に製造者として、技術者として)信念を持って貫いた経営方針は、その企業で働く従業員の心を捉え、今なお彼らを動かし続ける原動力となっています。
近年でいえば、ソフトバンクの孫正義氏がこれにあたるのではないでしょうか。
彼は、時代の風雲児として経済界に現れ、IT業界において革命的な一手を次々と打ってきました。彼の一言はグループ企業を巻き込み、信じがたいスピードで事を実現しました。そのパワーは業界全体にも影響を及ぼすほどで、記憶にも新しい「人を動かす」力であったように思います。
このように、非常に強いリーダーシップを発揮することで、何千人、何万人もの「人を動かす」ことが可能となるのです。
「適材配置」は、個々の適性や志向を考慮して配置するということです。適性とは、本人の資質に照らしてその業務を遂行する能力が高いか低いかであり、簡単にいえば向き不向きといって良いでしょう。一方、志向とは、本人がそれを望むのか望まないのかということです。どれほど別の領域で、高いパフォーマンスを上げていたとしても、マネジメントの適性がない者を管理職に配置しては、期待される成果を望むことはできません。
本人がそれを志向していない場合も同様でしょう。

人は、適性と志向をバランスして最適な配置を行うときにこそ、主体的に機能し、最大の力を発揮します。対して、最適な配置を行われていない場合はどうでしょうか。どんなに優秀な人間であっても、職務自体を楽しむことができないでしょうし、思うように成果を上げられなければ気持ちは鬱屈し、次第にパフォーマンスも下がっていきます。行きつく先は、メンタル不全による退職や、最適な配置を求めての転職であり、企業にとっては、せっかく育てた人材の社外流出という望ましくない事態を引き起こしかねません。

長く人事に携わってきたせいもあるのか、配置変更や転勤などでメンタル不全になる方や、望む業務ができないといって退職していく方を多く見てきました。企業活動を行う上で配置変更や転勤、職場異動は必要なものです。必要であるからこそ、実施する場合には、「適材配置」を考慮し、環境変化によってより高いパフォーマンスを発揮できるような「人を動かす」異動を実現する必要があるのです。

「モチベーションを高める仕組み」は、まさに人事制度がこれにあたります。どれだけ高い成果を上げたとしても、それを評価される仕組みがなければ、人は高い成果を上げ続けることが可能でしょうか。多くの者はモチベーションを低下させ、敢えて高い成果を上げるような生産性の高い行動をしない、という選択をするのではないでしょうか。無理をして失敗するよりも無難に活動する者も増え、企業の活力は停滞するでしょう。
 こういった事態を回避するためには、高い成果を上げる優秀な人材を厚く処遇し、更に高い成果を求めるという、好業績を生み出すスパイラルを実現する仕組みが必要なのです。
 この仕組みを如何に構築していくべきかが、「人を動かす」という点で、企業にとって極めて重要であると言って良いのではないでしょうか。

 「人を動かす」ということを考えると、人事に携わるということが、自分にとって何よりも興味深く、寝ても覚めても尽きない思考の素であることを再発見します。
 あなたが経営する、又は勤務する企業はどうでしょうか。「人を動かす」3原則を実現できていますか?
 これらの一つでも十分でないと感じるものがあるのであれば、企業を改革する好機と捉え、是非、改善のための一手を打つことをお勧めします。
 「リーダーシップ」が十分でないのであれば、方針が明確でないことが原因なのか、方針自体は、明確ではあるが、それを十分に伝えられていないことが原因なのか調査してみると良いでしょう。どちらに原因があるかによって打つべき施策は違ってきます。前者であれば、明確な方針を打ち出すことが改善のための施策であり、後者であれば方針を浸透させるために、コミュニケーションプランを立案すべきです。
 「適材配置」が実現できていないのであれば、個々人のスキルのたな卸しやアセスメントにより、適性を判定する仕組み造りを行うことが必要となります。一方で、従業員が何に対して興味を示すのか、どういった志向であるかを知るために面談やフィードバックを行う仕組み造りも必要になるでしょう。
 「モチベーションを高める仕組み」に問題や課題があると認識されるのであれば、先ずは自社の人事制度の実態について定量的・定性的双方の視点から十分な分析・検証を行う必要があります。人事制度そのものに問題や課題がある場合は、この問題や課題を解決できるよう人事制度の再構築を行うことが重要な施策となります。人事制度に問題や課題があるのではなく、正しく運用されていない場合は、制度の周知徹底を行うと共に、正しい運用を可能とする運用体制に見直す必要があるでしょう。

企業として「人を動かす」ことを実現できれば、企業目標を達成することは難しいことではありません。あなたにとっての「人を動かす」ための“3原則”とは、どのようなものでしょうか?

 



(2009年08月31日 南保 香織

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