
最新コラム「人事管理」
人事部門の生産性向上に有効な3つのステップ
執筆者:伊奈 悟
皆様の会社の人事部門は、生産性向上の取り組みを十分に進めていると思われますか?
コンサルティングの現場で、A社で1名の担当者が担当業務のうちの一部として担当している業務を、B社では4〜5名の社員で担当しているようなケースに出会い、しばしば不思議に思うことがあります。業種・業態・規模も似通っていても、制度の違い、業務に要求される品質の違い、担当者に与えられた権限の違い、様々な前提条件によりこうした差異が生じます。必ずしもA社よりB社の生産性が高いとは単純に比較することはできないでしょう。しかし、B社から見て同業務を一人で完結することができるA社の業務遂行には、担当者ひとりが幅広い業務をこなす上で参考になる知恵や工夫が含まれているでしょうし、またA社から見てB社の業務遂行には、不可分とされていた業務の分業や業務精度向上を図るための知恵や工夫が含まれていると考えてよいでしょう。
事業の売上や利益の大幅な改善が期待できない状況下では、間接部門の生産性向上による業績貢献が大きな意味を持ちます。粗利率10%企業の年間100万円の生産性向上は、年間1,000万円の売上効果に匹敵します。人員を絞る努力も必要ですが、まずは足元の人事管理業務の生産性向上に知恵を絞り、人事部門の率先した生産性向上努力によって組織全体に活力を与えていく方法を考えてみましょう。
間接部門の生産性向上の達成イメージとして「究極の目的は、業務を担当する間接部門自体をなくすこと」と語られることがあります。この究極の目的を実現するための人事部門の生産性向上の進め方を考えてみると、以下の3ステップで考えることが有効でしょう。
その1:非効率な人事管理業務を、人事部門に集約する
その2:集約した人事管理業務を、人事部門内で効率を高める
その3:高効率になった人事管理業務を、事業部門に再配置する
まず、効率が悪いと考えられる人事管理業務を人事部門へ移管し集約します。「既に人事管理業務は全て人事部門に集約されている」と考える方が多いかもしれません。しかし、日々人事部門から発信する役職者や事務スタッフ宛のメールの中には、「内容をご理解いただき、課長から社員へご説明ください」「不明な点は人事部までお問い合わせください」「事務スタッフにて回答を取りまとめの上、報告してください」といった人事管理業務の一部を事業部門に依頼するケースが多く含まれています。一つ一つの依頼内容は小さなことですが、その積み重ねによって人事管理業務の何割かは暗黙のうちに分散配置され、生産性低下の主要因となります。こうした事務業務を役職者や事務スタッフの当然の役割としてしまうのではなく、人事管理業務の一部分として捉えなおし、業務改善の対象として洗い出し分析することが重要です。
次に、集約した業務の構造を見直し、投入する総工数を圧縮し、業務効率を高めなければなりません。「業務担当部門を一つにまとめ、以前より関与者を減らしました」というだけで取組完了としている事例も目にしますが、業務集約により全体像が把握できれば、業務遂行に必要な投入時間の短縮、重複する業務手順の整理と統一、複雑な判断に関する基準・ルールの整備など、業務遂行方法を抜本的に見直すことが可能になるはずです。
抜本的な業務改善のための手法は様々考えられますが、有効な事例のひとつとして例えば「ナレッジデータベースの構築」が考えられます。「就業規則や給与規程などに関連する質問に対し、人事運用上の解釈を回答する」という業務を想定した場合、担当者がどういう質問を受け、どのように回答したかという履歴情報は、担当者の記入したメモや電子メールの中に分散してしまい部門情報として活用されない状態で眠ってしまいがちです。こうした情報がデータベースとして蓄積・更新・活用されうる環境が整えば、回答のための調査や回答文書作成にかかる時間は大幅に短縮されますし、同様の質問に対する回答が統一されることで新任担当者もベテラン担当者も等しくスピーディに回答できるようになり、業務全体の品質向上も期待できます。
また、生産性向上のアイデアを実現するためのコストが急速に低下していることも見逃せません。前述のデータベース構築の事例で言えば、以前は数百万円以上の初期費用を必要としていましたが、現在は一般にあるブログサービス転用などを活用することで一覧・検索・更新・速報性の高いデータベースを年間数万円の経費支出で構築できるようになりました。生産性向上の取り組みは一次的な大投資を必要とせず、日常的な業務活動の一環として容易に組み入れられるものになったと再認識すべきでしょう。
そして最終的には、効率を高めた業務を事業部門に再配置し、事業部門にて自律分散処理されるようになって初めて、業務の高生産性が実現します。前述した「ナレッジデータベース」を各部門の役職者や事務スタッフに開示することで、従来に比べて部門からの問い合わせ件数が大幅に減少する可能性があります。問い合わせをデータベース上で受付し回答するようにして自動的に履歴情報を記録していけば、人事部のみが活用している以上に事例・対策に関する情報蓄積が加速し、データベースの有効性は飛躍的に向上します。また、人事部は問い合わせ件数の多い規程について優先的に改訂を実施することができるため、人事企画業務の生産性も向上するでしょう。人事管理業務を再配置する場合の最適な配置先として「高度に自律化した事業部門」内を選択する、業務生産性向上の最終形として「部門に分散配置しても、業務効率性が損なわれないレベルまで、システム化や単純化が進められている」という状態を目指すことが重要です。
事業ラインの自律化が進み、各部門の人事管理は部門内完結あるいは部門間コミュニケーションを前提に進められる条件が整えば、人事部門は会社組織を成すための最小限の統制のみを行う非常に小さな組織まで圧縮するとともに、きめ細かい人事戦略を企画し実践するための組織へ進化することができるでしょう。「数名の人事部員で数万人の人事管理を行う」・・・突き詰めて効率化が進んだ人事部門の実現も決して夢物語ではありません。毎年、相変わらずの業務サイクルを粛々と進めるという役割にとどまっていては人事部門の存在意義は薄く、それはこれからの時代で求められる人事部門のあるべき姿からは程遠いと言わざるを得ないでしょう。
(2009年06月03日 伊奈 悟)
