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IT企業が生き残るための人事基盤のあり方とは
執筆者:久保 博子

 最近、某大手IT会社勤務の友人と会い、会社の状況を聞く機会があった。前回会ったのは半年くらい前だったのだが、そのときは転職活動をするという話を聞いていたのでその後の転職活動の進捗を聞いてみた。すると、今は「その時」ではないから休止中なのだそうだ。その理由を聞くと社内で大リストラが起こり、それが発端となって若手からベテランまであらゆる層について、自ら退職を願い出た人も多く現在転職市場にはその会社の人があまりに多くいるそうだ。そのため今まで転職市場では大手IT企業ということで引き合いも多かったが、市場にあまりに自分と同じ経歴の人がいるため、今は自分の経歴の価値が下がってしまっていてよい話がこなくなっているとのことだった。(本稿で言うIT企業とはシステム開発サービス会社のことを言う)
 今、IT業界も他の業界と変わらず不況の波が押し寄せてきているようだ。
 IT業界のビジネスは重層的な下請け構造となっている。それは、会社にとって必要な社員数はプロジェクトの数によって左右され、固定的ではないためである。プロジェクト数は世の中の景気に伴い、企業のIT投資への力の入れ具合によって増減する。そのため、柔軟性を保つため、正社員の人数をある程度に抑え、外部の労働力を確保することで経営リスクを回避している。その結果重層的な下請け構造が出来上がってきた。
 このような業界構造と、現在の経済環境下において、IT投資を控える企業が増え、仕事の絶対量が減少している。また、「元請け」は利益率を確保するために外注費を抑えるため、「下請け」企業の売上げ・利益率ともに下がり、淘汰されていく危険にさらされている。現在IT業界(ソフトウェアサービス産業)において、「元請け」は20社程度しかなく、日本にあるほとんどのソフトウェアサービスのIT企業は「下請け」であると言われている。
 星の数ほどある下請け会社の中で、生き残るためにはニッチなソフトウェア開発が可能であるとか、短納期で高品質なアウトプットを出すことができる特別な体制でプロジェクトを遂行することができるだとか、特色を持つ必要があるだろう。もしくは「元請け」になることを目指すということも考え得る。特色ある会社となったり、「元請け」を目指すためには、ビジネスモデルの再検討や、明確な戦略を持ち、その実現に向けた人材を産み出していく人事の仕組みをつくることが非常に重要となる。
 しかし、IT企業の人事の方とお話をしていると、求めている人材像が会社の戦略的な方針・方向性と連動していないと感じることがよくある。例えば、どのような人材が欲しいかという質問をすると、部下を育てられるプロマネだとか、コミュニケーション力のある人だとか、ITSS○レベルの人といった答えをよく聞く。もちろんこのように業務上必要なスキルに基づいた具体的な人材イメージは重要だが、会社の方向性と連動した必要人材というよりは、短期的に今、仕事を回すのに必要な人材であると感じる。
 その結果、プロジェクトを回すことができる人材やプロジェクトを遂行できるレベルの人材、つまりITSSでいう1〜3レベルの、実務的な人材で構成された組織となってしまっており、会社の中長期的な方針を実現する人材が揃っていない状況に陥っているのではないだろうか。
 つまり、会社の方針や目指すべき成長目標を元に必要な人材像や人数を揃えているというよりは、「元請け」からの仕事をこなすために必要な人材と人員を揃えているのだろう。「元請け」から安定的に仕事を請けることができ、仕事の内容にも大きな変化がなければ短期的にはそれでもよいのかもしれない。しかし、このような経営環境下において、「元請け」になる、もしくは明確に自社の特色を打ち出していくためには、中長期的な視点で必要な人材を創出していく仕組みを持つ必要があるだろう。具体的には以下のような人事の仕組みを構築するのはどうだろうか。

  1. 方針を実現するために必要な人材像を明確にし、その人材を創出するキャリアパスを設計する
      ・例えば、営業に強みを持つ会社とするならば、今までは、組織をマネジメントする、いわゆる「管理職人材」となることを主要なキャリアゴールとしていたものを、技術力もある営業のプロフェッショナル人材を主要なキャリアゴールと位置づけた複線型の人事制度を構築することなどである。 

  2. キャリアパス設計で算定された適切な人数構造に基づき、方針、目標とするビジネスボリュームを実現するために必要な人員を揃える
      ・今の仕事をこなすための頭数ではなく中長期の視点で必要な人材を確保していく人員計画を作成し、方針実現に必要な人員を計画的に揃えることである。 

  3. 方針を実現するための人数構造を適切なスピードで内製していくための教育体系をつくり定期的に教育を行う
      ・中長期的に必要な人材を計画的に育成する仕組みを持つことである。求める人材に必要な能力を定義し、その能力を段階的につけさせるための教育を行っていくことである。例えばプロマネに部下育成の能力を求めるならば、プロマネに対して部下育成のための研修を実施する。よくITSS○級のスキルを身に付けさせる研修はあるが、業務知識だけでなく仕事を行う上でベースとなるスキルを身に付けさせる研修も必要だろう。 

  4. 社員全員が、会社の方針・戦略を十分に理解して、社内において、どのようなキャリアを目指して何を経験していきたいかを考えさせる機会を設定する
      ・キャリア研修や複数の部署をローテーションするキャリアディベロップメント制度を導入し、会社の方向性を理解し、その中で自分をどう成長させていくかを積極的に考える機会を設けることである。

本来、会社の方針を明確にし、それを実現する人材象を明確にし、その人材を揃えるための仕組みを持つことはIT企業に限ったことではない。しかし、IT業界については、重層的な下請け構造であることや人材流動性が高いことによって、短期的な人材獲得に走りやすい傾向があり、中長期的視点を持った仕組みが根付くのが遅れていると感じる。だからこそ、他社に先駆け、自社の立ち位置を明確にして方針を打ち出し、それを支える人事基盤を作っていくことは、業界の中で確固たる地位を築くことためのアドバンテージとなるに違いない。



(2009年04月30日 久保 博子

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