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組織・人事の変革と「文化」
執筆者:原 義忠


    「この制度は当社の『文化』には…」
    「わが社の『文化』にマッチした戦略でなければ…」

これまで社員として、コンサルタントとして組織に関わった中で、このような趣旨の発言をどれだけ聞いてきただろうか−

さまざまな業界で経営環境がめまぐるしく変化する中で、多くの組織が「何かを変えなければならない」ともがいています。しかし、何かルールを変えようとするとき、しばしば大きな障壁となって現れてくるのが、この「文化」という、得体のしれないものです。

今日まで、あらゆる組織が理想の仕組みを目指し、さまざまな組織形態や処遇システムの構築に取り組んでは成功と挫折を繰り返してきました。そして、近年の成果主義人事制度を巡る議論に象徴されるように、失敗する度に「文化とのアンマッチ」が指摘され、組織固有の文化に適合した施策の重要性が主張されます。

組織構造や人事制度の変革を志向するとき、「文化」の理解が重要であるということは感覚的には理解できます。しかし、これらの失敗は本当に「文化に合わない」ことだけが招いた顛末なのでしょうか。

そもそも、文化とは一体何か、何かを変革しようとするとき、文化を引き合いに出す組織が、どれほど「文化」の本質を理解できているのでしょうか。組織心理学の大家であるE.H.シャインは、文化を、「われわれ個々人および集団としての行動、認識方法、思考パターン、価値観を決定する強力ではあるが潜在的でしばしば意識されることのない一連の力である」(シャイン『企業文化』原著:1999)と定義しています。これを組織に当てはめれば、組織文化とは、組織の行動すなわち経営戦略や目標、価値観を決定するものであり、組織の行方を左右する重要な要素であるのは異論のないところでしょう。しかし、一方で、文化は「潜在的で意識されることのない」ものでもあり、自分の属する組織の文化を理解するというのは、軽はずみに「文化に合わない」と言えるほど単純なものではないはずです。

ここでは「組織文化」の定義を議論することが目的ではないので、ここからは、「組織・人事の変革」と「文化」との関わり合いについて考えてみたいと思います。

ここまで見てきたように、組織や人事の変革を検討する場合に「文化」というファクターが無視できない存在であることは間違いないでしょう。合理的で構造的な組織や人事の仕組みを構築するためには、まず「文化」を正確に把握する必要がありそうです。しかし、現実には「潜在的で意識されることのないもの」を評価するわけで、現時点では組織の文化を正確に診断するためのメソッドは必ずしも確立していないと思われます。

しかし、唯一の方法はないとしても、その組織に根付いている文化を理解するためのヒントは数多く存在します。例えば、役職階層ごとの人員構成をみたとき、組織図や実際の職務と比較して明らかに役職者の数が多過ぎ、「逆ピラミッド型」の歪な人員構成になっている組織が、職務内容や成果に関係なく、「大過なく」過ごすことによって処遇が上がっていった結果としてできているとしたら、そうした組織では、おそらく「変革志向の文化」は育まれにくく、外部環境の変化が激しい環境下では厳しい経営を強いられることでしょう。また、「技術開発」が業績に直結する業界の組織であれば、短期的な成果よりも中長期的な成果を重視する文化が存在し、その文化が従業員のモチベーションの源泉になっているかもしれません。

もちろん、実際の企業活動はここで取り上げたような単純な話ではありませんが、創業からの年数、設立形態や従業員数といった組織の属性や業界の特性、ビジネスモデル、事業ドメイン、外部労働市場との賃金水準の差異といったさまざまな要素や情報を複合的に分析することにより、その組織に浸透している(はず)の文化をある程度想定することはできるはずです。

現実社会をみると、業種、規模、ビジネスモデル等の条件によって、類似の組織構造や人事制度を採用し、同じように成功し、停滞している例も多く見られます。であれば、先に述べた「文化を示す(示しているであろう)要素」を的確に分析し、分析結果の類似性を検証することにより、個々の組織の成長に資する組織構造や人事施策に求められる要素が見えてくるのではないでしょうか。少なくとも、やみくもに、感覚的に、組織や人事について議論するよりは、変革の成功確率は格段に上がると考えられます。

何かを変えようとするとき、「文化を考慮する」ことと「文化に迎合する」ことは違います。「なんとなく文化に合わないので…」ではなく、諸々の情報を分析することで、得体のしれない「文化」というものを少しでも客観的に理解しようとする姿勢を持つことが必要です。確かに、組織や人事というのは「ヒト」を扱う領域であり、理論や合理性のみで意思決定された仕組みがスムーズに浸透するのを期待するのは難しいことです。また、人材を「数値的な」発想のみで議論することに抵抗を感じる組織もあるでしょう。しかし、実態を伴わない文化論やエモーショナルな議論に引きずられて、変革に消極的になってしまっていては、変化の激しい外部環境にスピーディーに順応し、成長し続けることは難しいのです。組織や人事の問題を客観的な指標に基づいて議論していくことは、少なくとも、具体的な根拠もなく「文化」をパラダイムシフトの阻害要因として振りかざすよりは健全なアプローチだと考えます。

たとえ困難でも、文化という掴みどころのないものと正面から向き合った上で、適切な組織や人事の形を探し続ける−その姿勢が、新たな文化を創造するための第一歩になるはずです。今、このコラムをご覧になっている組織や人事に携わる皆さんは、文化をスケープゴートにして、変革から逃げ腰になったりしていませんか−


(2009年04月01日 原 義忠

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