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コラム





トッププレーヤーをいかにしてトップマネージャに仕立てるか

 大企業の多くは1980年代の終わりごろから1991年ごろまでに新卒学生の大量採用を行った。いわゆるバブル期の大量採用の現象であり、この頃に採用された人々はバブル採用世代などと呼ばれている。バブル採用世代は現在では38歳から43歳くらいになり、第一線の管理職として活躍している年齢である。
 年齢別の人員構成を調べると、バブル採用世代が突出している企業は多い。他方、その前後の世代は少なくなっている。企業はこうした人員構成の歪みにどう対処してきたのだろうか。大きく二つのことが考えられる。

 一つは、社外退出を促進したことだろう。バブル崩壊以降急激に進んだ雇用流動化の流れは、雇用の市場を発達させ、被雇用者がより雇用吸収力のある他の会社に転職することを後押しした。実際、盛んに人員リストラが行われた1990年代には、雇用調整の重要な手段としてキャリアカウンセリング、希望退職募集、再就職支援といった手法が広く使われ、多くのビジネスパーソンが長く勤めた会社を離れて新しい会社に雇用されていった。バブル採用世代の人々は、この頃、入社5〜6年で、ビジネスパーソンとしての実力がついてきた段階であっただろうから、より成長の見込める外資系企業やIT企業に新たなチャンスを求める人は多かっただろう。
 もう一つは、昇格の速度にばらつきを持たせることで、ポスト数や業務量と人員数とのバランスをとったことである。同期入社の仲間よりも早く昇進させたり、逆に昇進を遅らせたりすることにより、職位や資格等級別人員構成の「山」を「均した」のである。解り易い言い方をすれば、一時に大量の課長を任命するようなことを避け、選別された者だけを必要数任命するような努力を行ったわけだ。かつて管理職登用年齢がほぼ一定であったような会社でも、この「山を均す」人事を工夫する中で、ハイパフォーマとそうでない人とが明確に区別され、昇進の早さにかなりの差がつくようになった。

 現実の人事政策の中では、前者ではなく後者の施策に重点を置いた会社が多かったと思われる。厳しい成果評価を実施する過程で、結果として社外流出を加速した会社もあったに違いない。いずれの場合においても、バブル採用世代の人々は、入社して間もなくバブルが崩壊し、以降の将来不安と人材淘汰の厳しい環境の中を生き抜いてきた、かなり逞しいビジネスパーソンであるということが想像される。

 さて、冒頭に述べたとおり、今の時代に現在若手管理職として第一線で活躍する人々のうちには、このようなバブル採用世代の中から同期の仲間より先に抜擢されてきた人材が多く含まれている。彼らの多くは一人前の業務担当者として高い成果を期待され、ひとりの「プレーヤー」として強い危機感をもって競争を勝ち抜いてきた一流の人々である。これらの人々の経験は貴重だ。トッププレーヤーとしてのビジネスに対する洞察力も大変高いものを持っているだろう。
 ところが、淘汰を勝ち抜いた優秀なプレーヤーであればあるほど、自分なりの仕事の流儀を確立していたり、他人の持たない情報ソースを持っていたりする。「人にやらせるより自分でやったほうが早くて良い仕事ができる」と考えている人も多い。「自分のノウハウは極力他人に教えない」という人もいるだろう。いきおい、部下の指導育成、部下の業務成果に関する精密なる管理などは最も苦手な仕事だということになる。トッププレーヤーは必ずしもトップマネージャとは言えないのである。
 では、プレーヤーとして高いパフォーマンスを示してきたこれらの人材を、改めてマネージャとしてのハイパフォーマに改造することができるのだろうか。

 実践的で緊張感ある訓練を一定程度繰り返すことにより、このことは決して不可能でない。なぜなら、マネジメントスキルとは予め備わった才能を示すものではなく、訓練によってかなりの程度身に付けることができる技術だからである。
 例えば、自己のノウハウを部下に移植していく仕事は、日々の業務指示を的確に与え、綿密にフォローアップしていくスキルを身に付けることで、かなりの程度効果をあげることができる。部下の弱点を見定めて育成のプランを作る仕事は、実際の部下の評価を基にマネージャ同士が議論を重ねたり、評価調整会議に集中して時間を割いたりすることにより、意図してそのスキルを獲得させることができる。会社の戦略を自部門の計画に落とし込むこと、それに合わせて的確な部下の配置を決めること、部門の最終目標達成のために押さえるべき中間指標を考え出すこと、部下のやる気を引き出すために、有効な会話をすること等など、どれも訓練できることである。
 研修予算を潤沢に準備できない中堅の会社の中にも、新任の若手管理職を1週間缶詰にして、マネジメントの「技」を徹底して訓練する会社がある。同じテーマの訓練を毎年少しずつグレードアップしながら繰り返し実施することで、厚みのある管理職層を構築できた会社もある。最も大切なことは、優秀なマネージャを養成しようとする、会社の強い意思ではないか。
 バブル期に採用した優秀プレーヤー群の中から何人の優秀マネージャを養成することができるかということが、向こう数年の戦略遂行力を決めることになる。

(森 大哉)  

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