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コラム





人事における再チャレンジ施策

 先頃、小泉首相がその5年超にわたる任期を終え退任し、後任には総裁選において約7割の得票を得た安倍晋三氏が就任した。総理就任後、安倍内閣は特命大臣として再チャレンジ担当大臣を設けるなど、「勝ち組、負け組を固定化させない社会の実現」に向けた政策を政権の柱の一つとして位置づけている。
 また、再チャレンジに向けた取り組みについては、自己責任・自助努力の意識の希薄化や起業→倒産件数の増大化への懸念など、慎重に行うべきという考える論者もいる。この政策の成否については、今しばらく慎重に見守る必要があろう。
 一方、会社においても社員の有効活用を推し進める観点から、人事制度において、いわゆる「敗者復活・再チャレンジ」という考え方や仕組みを導入することには、十分に検討に値するのではないだろうか。

 企業の業績は、様々な諸要因の組み合わせの結果生じるものである。中長期的には企業の経営戦略の巧拙、組織としての目標達成能力に依存する。それに対し短期的には、市場の動向、競合他社、営業的な巧拙など様々な偶然といった要素にも影響されうる。このことは従業員の評価・格付けに際しても同じである。従業員の評価も中長期的な観点からの評価と短期的な視点での評価の双方をコントロールしなければならない。短期的な業績を重要視した評価は、中長期の人材の育成の観点と相反する可能性がある。短期の業績評価でのマイナスやプラスを中長期の評価までに反映させることは非常に危険である。

 例えば、ある事業やプロジェクトを担った人物が、その事業やプロジェクトの失敗によって十分な処遇を得られない地位・ポジションに付けられたとする。その従業員は再起を目指し、更なる奮闘をするかもしれないが、以前の失敗したことへの評価がついて回り、十分に報われない位置付け・処遇のままで改善の兆し・望みが叶わない場合は、腐ってしまうかもしれない。その結果その従業員は企業を辞めて独立するか、別の企業へ転職したりするといった可能性もある。仮に他企業へ転職した場合、転職先となった企業は、転職前の企業がその従業員に投資した高い授業料を自らのコストをかけることなく、果実だけを得ることができるのである。言い換えれば、転職前の企業は、従業員への投資(=事業やプロジェクトの失敗によって生じたコスト)を行ったが、そのリターン(=失敗によって学んだ知見やノウハウ)は別の企業によって刈り取られることになったということである。

 人事制度に求められる基本的な要件は、人事制度が自社の経営戦略実現・企業価値増大に資するインフラとして機能することにある。従業員を区分し、管理することはそのための手段であって目的ではない。一定期間の評価によって従業員に序列を付ける必要はあるが、その序列が事業環境や戦略のあり方によって、適宜見直されるべきものであり、所与の前提・不変のものとする理由はないのである。

 では、どのように評価を行い、その結果を活用するべきであるのか。そのための基本的な視点としては、従業員を二つの見方から捉えることが必要である。
 第一は、中長期的な視点である。これはどの人材が中長期的に自社の中核人材となりうるか、コアコンピタンス強化に資する人材となりうるのか、ということである。この視点からは、短期のパフォーマンスだけではなく、本人の能力と経営戦略遂行に必要な職務の達成度から評価を行うべきである。そして、この評価は蓄積され、能力開発の指針や人材の配置・登用などにおいて活用されるべき評価結果である。即ち、能力開発の指針、及び人材の配置・登用として機能する評価は、中長期的に行われるべきであるということである。
 第二は、短期的な視点である。これは、ある一定期間における業績が、当該期間の目標に対して、どの程度まで達成できたのか、という観点で評価を行うということである。先にも述べたように、会社や個々人の業績は中長期的には会社や本人の実力に依存するが、短期的には偶然に伴う幸運や不運によって左右される側面を持つ。しかし、振ったバットにボールが当たることも十分あり得るのが現実であり、たとえ本人の実力以外に起因するものであったとしても業績貢献があれば、それ相応の処遇を実施すべきであるし、その反対の場合も同様である。しかし、この視点は短期的な見方であり、この評価結果は蓄積されるべき類のものではない。あくまで短期的評価に基づく処遇への反映は、賞与など一時的な処遇反映に止め、当該期間を超えて役職登用や配置などの判断材料とすることは適切ではない。

 企業のリストラが一巡した現在において、社内にはリストラ前に比して、「優秀層比率」が高まっているはずである。また、多くの企業では「成果主義」の名の下に、短期的評価偏重の傾向がままみられるのも事実である。そうした短期評価偏重による人材格付けのあり方を見直すことは、従業員に「再チャレンジ」の場を与えることと同義であり、人材をより有効に活用する手段である。失敗経験のある人材の活用は、得がたい知見・経験を持っている人材として処遇することが、組織全体として「経営の知」を内包化し、企業の戦略レベルを向上させる有効な手段であり、企業戦略の構築と実現に資する方向ではないかと考える次第である。

(井上康晴)  

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