人材育成を行う上での今日的ポイント
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今春闘で久々にベアを巡る交渉が話題となった。各企業に訪問した際にその話になることがあり、定昇・ベアをしばらく凍結していた企業から「ベアのやり方を忘れました」と笑いながら賃金規程を開示され、その方法について解説をしたこともある。
人事担当者がベアの方法を忘れる――。忘れるまでの間に何が起こっていたのか。この期間は、1990年代初頭からのいわゆる「失われた10年」に当たる。この時期は、企業業績低迷の長期化により人件費抑制または削減が経営の優先課題となっていた。企業存続のために人件費単価の抑制と人員削減に向けた両施策が実行され、それに伴い総額人件費が改善されるということが多くの企業で相次いだ。当然投資に対してもブレーキがかかり、設備投資だけでなく、採用や教育といった人的資源に対しても抑制された。例えば、新卒採用は団塊の世代とバブル世代の二こぶラクダが災いし、人は余っているという認識の下抑制されたし、人材育成については教育が人材に対する投資である以上、投資による効果がどれくらい出るのか株主等に対する説明責任に明示的に応えるには困難を伴い、結果的にコスト削減の名目の下、教育予算が削られ人材育成が後回しになる状況が続いた。
これらの結果、行き過ぎた成果主義とビジョンのない雇用調整は従業員のモチベーションを低下させ、優秀な人材を流出させた。また、新人が入ってこない職場では業務指示の能力も低下し、短期的な業績向上を急ぐあまり必要な技能・技術伝承が疎かになり、それらを受け継ぐ若手も不在で現場力が削がれることとなった。
しかし、今ここに来て、景気回復の後押しを得ながら、一方に極端に振られた振り子が適正な位置に戻りつつある気がしている。その背景のひとつに、経営環境が以前と大きく変化したことが挙げられる。経営環境のスピード化と複雑化に伴い、それらの環境変化に対応しつつ経営計画を確実に達成するためには、それを実行する人材を確保し育成する必要がある。言い換えると、経営戦略に基づく長期ビジョンを持って育成をしなければ、今後長期にわたって競争力を維持していくのは困難になる。また、事業ドメインが変遷する中で他社との差別化、競合優位性が確保できる人材を育成できなければ、企業運営自体が難しくなるだろう。結果として、このような環境変化に対応するために、厳しさだけの成果主義では組織も人材も萎縮してしまうため、何らかの形で成果主義を継続するものの自社にマッチした制度へ見直し、あわせて人材育成を経営課題の重要事項に位置付ける声が高まってきた。
このような状況下に人材育成を行う上で、ポイントが3つあると考える。
@経営戦略に連動した人材育成であること
経営戦略を遂行する上で、育成が必要な人材を見極め、育成の目的を明確化することが重要である。経営戦略上育成が必要な人材とは、中長期的に見た場合と短期的に見た場合とでは異なる。例えば、後継者育成をしなければならないといった場合は、中長期的な視点でしかも選抜型となるだろう。一方、お店にCSを徹底させたいといった場合は、パート・アルバイトを含めた店舗従事者を対象に短期で教育する必要がある。それぞれの育成の効果を定着させるためには、そもそもの目的を明確に対象者に伝えることが必須である。後継者育成のために選抜型研修を実施するのであれば、研修はひとつの手段できっかけに過ぎず、対象者が選抜された意味を理解していれば目的を達成するために研修以外に必要な方法を自ら調達するだろう。
A現場力強化を目的とすること
上述したように、失われた10年の間に職場に新人が入らずノウハウの継承も疎かになった。しかし、有効求人倍率が数ヶ月連続で1倍を超えている状況からも分かるように各企業の採用はかなり活況を呈してきた。今後、新卒、中途にかかわらず多くの新人が現場に配属されることになる。現場では、後輩や部下を持った経験のない世代がマネジメント世代に到達する。そのような状況で何が起こるかは自ずと推測がつくだろう。そもそも日本企業の強みの一つはOJTによる育成であった。長期雇用慣行下で行われる安定的で継続的な育成は現場力を高める源泉であった。長期雇用慣行は崩れたが、OJTで人材を育成していくという方法は今後も根強く残っていくと考えられる。OJTが円滑に行われ現場力が高まるよう、マネジメント層に対する教育は重点的に行うべきである。さらに、マネジメント層にかかわらず、現場における問題を解決する能力・スキルを各人が向上することで現場力強化に向けた相乗効果が期待できる。
B個人のキャリアを活かす体制を整えること
長期雇用慣行の崩壊とともに、企業が社員の自律を促すようになってきた。そのため、社員自らが自己のキャリアを選択し実現できるような体制を整備することが必要になってくる。具体的には、社員が自分の価値を自ら高め、キャリアの選択肢を広げつつ実現を図ることができる施策である。キャリデザインのトレーニングだけでなく、業務スキルを高めるためのトレーニングも準備しておく必要があるだろう。場合によっては早期定年で社外にキャリア実現の場を求めてもいい。人材としての価値が高まった社員を十分引き留められる処遇策を整備しておくことは言うまでもない。
(芝沼 芳枝)
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