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企業が社会的責任を果たすために人事部門が出来ること
執筆者:伊奈 悟

「企業の社会的責任(=Corporate Social Responsibility、以下CSR)」をどのように果たすのか、ということが企業の経営品質を左右する重要な要素として評価される時代となりました。平成16年度の環境省の調査「環境にやさしい企業行動調査」の結果によれば、調査に回答した2524社のうち49.7%が「CSRを意識した経営を実施している」と答えています。さらにその内で「CSRを意識した経営は企業ブランド価値の向上やイメージアップにつながる」と答えた企業は、平成15年度調査の36.8%から平成16年度調査では62.6%に上昇しています。また最近は企業の不祥事が多発し、その結果が招くマイナスイメージが企業業績にどれほど影響するかは明らかであり、CSRを経営上重視する傾向は今後もますます高まることでしょう。当然、経営戦略の一環としての人事戦略も、CSRへの対応力をどのように高めていくのか、という点を踏まえて策定される必要があります。

まずCSRとは何か、経済同友会が2003年度に発行した第15回企業白書には、社会的責任を負う企業の立場について次のように書かれています。

『企業は全て社会との関係において公的な性格を有して』おり、『企業が「社会の公器」としていかなる方法と、いかなる分野において社会に役立つあり方を見つけるか』は『どのような理念を持って経営を行うかによって多様なものとなる』。そして、『企業経営に関わるすべてのステークホルダーを視野に入れ、その時代の社会のニーズを踏まえて優先順位やバランスを決めるのが経営者の仕事』であり、「社会的責任」と「経済的責任」の『両者を包含するコンセプトとして「社会的責任」を認識し、両者を高い次元で調和させることによって、社会と企業の相乗発展を実現しようとするものである。』(『』内は、第15回企業白書より引用)

事業に志を持つ人材が集まり、企業は「法人」という一社会人になります。一人の人間が社会の中で生きる場を必要とし、社会からも様々な役割を求められているように、一法人としての企業もまた「生きる場」としての社会を必要とし「担うべき役割」を社会から求められます。また企業が生きるということについて言えば、CSRの中心的なキーワードに「サスティナビリティ(持続可能性)」があります。これは、企業が現時点で利益を上げつつ、将来にわたって顧客に製品・サービスを供給し続けることができる可能性を持っていることを指します。こうした社会と企業の相互・継続的関係から、CSRを実践する経営の第一歩は、企業が自ら社会・経済・環境との調和を取りつつ、社会における役割を果たすために「健全に生き続ける」ことであると考えます。

では企業が「法人」として「健全に生き続ける」ことが求められているとするならば、我々人事に携わる者はどういった役割を担うべきなのでしょうか。「企業=ひとりの社会人」の例えを継続すれば、企業に所属する人材はそれぞれ細胞に例えられます。人材の有機的なつながりによって「組織」「部門」といった臓器や器官が構成され、これらの機能が統合制御されて「法人」としての活動や運動が行われていると言えます。そしてこの「法人」が自然人と同様に、社会の中で十分な活動や運動を行い続けるためには健康な心身が必要です。新陳代謝を活発にすること(人材の採用と代謝)、活動・運動しやすい体型や体重を保つこと(人材の適正配置)、血行をスムーズにし細胞に栄養補給を行うこと(給与制度)、運動や節制により各器官の機能を強化すること(人材育成・教育)、規則正しい生活と休息により疲労や負荷を蓄積させないこと(時間管理・福利厚生)、など体内環境の維持調整機能を通じて「健康な心身を作る」ことこそ、我々人事に携わる者の役割と言えそうです。

江戸時代の本草学者である貝原益軒(1630-1714)の「養生訓」によれば、『萬の事つとめてやまざれば必しるしあり。(中略)もし養生の術をつとめまなんで、久しく行はば、身つよく病なくして、天年をたもち、長生を得て、久しく楽まん事、必然のしるしあるべし。』とあります。要は、自分自身の健康法を良く考え、実行すればするほど健康で長生きができるとの教えです。病にかかってから慌てて薬を飲むように場当たり的な財務・法務リスク対策としてCSRに取り組むのではなく、健康な体を作るために「器官」=「組織」や「細胞」=「人材」をどのように強化し総合的に健全な企業体質を作り上げるか、中長期的な人事戦略の中で「意志」を持ち地道に取り組むことこそ、企業の寿命をより長くすることにつながります。財務も法務も健全な人材が支えて、はじめて正しく機能します。人事部門がCSRの主体的推進者となることこそ、最良のCSR対策なのではないでしょうか。


出典:
(1)  平成16年度「環境にやさしい企業行動調査」(環境省総合環境政策局環境経済課)
II.6項 企業の社会的責任(CSR)について
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/h16/06.pdf

(2)  第15回企業白書「『市場の進化』と社会責任経営企業の信頼構築と持続的な価値創造に向けて」(社団法人経済同友会)
第1部 問題意識 2項 あらためて企業の「社会的責任」を問う
http://www.doyukai.or.jp/whitepaper/articles/pdf/no15/030326_4.pdf



(2006年03月03日 伊奈 悟

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