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コラム





成果主義の行方−日本型成果主義の展開−

 一昨年、日本経団連「職務研究」誌9月号で、人事労務の世界に成果主義という亡霊が徘徊していると指摘したが、その実態が白日の下にさらされた。今や、高橋東大教授の言の如く、「成果主義は失敗したとの評価が定着した」と言われている。
 バブル崩壊後、デフレ不況下で、海外のコンペティターの制度だから、グローバル企業の要件だから等の強迫観念で競って導入された成果主義人事は、我国人事制度が拠って立つ下部構造への深い認識なくして憑かれたが如く企図されたのが実像ではないか。先行企業の蹉跌、日本の組織風土に適合させるべく改変した有力企業の事例が出てくる中で、成果主義の問題点が明瞭に浮かび上がって来た。最大の間違いは、戦後日本経済を世界最高の水準に成長させた原動力である長期的視野に立った人材育成、目先の成果を追わない評価、集団の和を重視する組織文化、そして柔軟な職務への人材配置等を損なう仕組であったことにある。その主因は、斯界の権威者楠田先生が指摘されるように、「人間基準でなく、仕事と賃金を結びつける仕事基準の考え方にある」といえよう。資源のない我国を支える基幹産業の製造業において、外部労働市場が成立しにくい中、能力の向上よりも短期の実績を挙げる目標の実現に邁進し、最も信頼し、助け合うべき仲間を眼前の競争相手とすることを是とするような仕組が、我国の組織文化に適合することは至難だったといえよう。
 そもそも、我国の組織風土・文化の根源は、水田式稲作にあり、日本人の基本精神は、遠く聖徳太子の御世から連綿と続く和の精神、年長者を尊重する心、勤勉さにある。長幼の序を守り、集団の連帯、男女年齢に応じた役割分担、そして一体となった集団の目標達成に向けてのエネルギーがその根本である。この世界の中でも傑出した日本人の美点であり、強みである下部構造を反映した制度でなくして、日本人の心に適い、意欲につながる制度は成り立たないことが明白になったといえよう。
 では、今後の人事制度はいかなる方向を目指すべきか。本来、企業は成果なくして存在し続けられない。成果を挙げることは当然のことである。しかし、企業を支えるのは人材であり、企業の発展は、そこに働く人がやる気を起こし、仕事を通じて自己実現を図り、企業の業績に貢献できる仕組みなくしては画餅に過ぎない。人間基準に立った成果主義−日本型成果主義が目指すべき方向といえよう。その理念は、能力、仕事と賃金の高位均衡にある。即ち、長期雇用の下で、人を見て仕事を与え、仕事を通じて能力の向上を図り、その能力にふさわしい賃金で遇し、更に一段と高度の仕事をこなし、生産性を高めると共に、更なる成長を図り、処遇も高めてゆく仕組である。以下に日本型成果主義人事制度の基本モデルについて概説する。
  長期的視点に立った人材の育成を基軸とすることから、職能資格制度が基盤となる。職能資格制度は、正しい意義での年功を踏まえ、働く者の能力の開発向上を基本にする能力主義に基づき設計される。基本給は、一般職能は職能給と年齢給とし、管理職能は職責給/役割給と職能給とする。職責給/役割給は、当年度の設定した業務目標・課題の大きさと難易度の質量両面からの職責評価と設定目標の挑戦度・意欲に関わるチャレンジ評価に基づき決定される職責評価別の定額賃金とチャレンジ加算からなる。職能給は、前年度の業務目標・課題の達成度の評価とその結果の企業業績への貢献度に基づく業績評価と目標達成の過程で顕在化された実力の評価により決定される職能資格別査定別定額の賃金である。
 職責給/役割給は、新年度の開始に当たり、本人の職責の大きさと難易度、意欲とその力量から決定される賃金である。即ち、結果でなく、職掌規定に定める職務でもなく、人を見て決める賃金で、まさしく人間基準によるものである。
 能力の評価は、前述の実力、即ち成果実現能力とこれまでの職業生活における習熟能力の総量であり、潜在能力、育成につながる可能性を秘めた保有能力を対象とする。実力評価は、バリュー評価といわれるもので、企業の目指す理念、企業の求める人材の行動態度を基準とする。保有能力の評価は、職能資格の要件に照らして行う。賞与は業績評価、昇格は保有能力、実力と業績の各評価に基づき行われる。
 今や、人事制度改革の流れは、こうした人間基準に基づく日本型成果主義の方向で、大きく動き始めているといえよう。今後は、より厳しく成果を求められる役員の評価処遇への成果主義の展開が課題となる。

(梅本迪夫)  

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