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コラム





「組織力を考える」

 日本でも最近は、多くの企業で程度の差こそあれ何らかの形で成果主義の導入が進み、旧来からの年功序列に拠る企業は少なくなってきた。しかしながら、成果主義が単なるコスト削減の手段として使われるケースも散見され、結果的に失敗した事例も少なくない。このため、行き過ぎた成果主義への反省を題材にした書籍が多く出版されるなど、成果主義へ大きく振れていた振り子が逆方向に振れ戻りつつある感さえする。ご存知のとおり、成果主義は欧米の狩猟文化の中で生まれて来たわけで、それと対極にある農耕文化に由来した日本企業へいきなりこれを導入しても、組織風土と言う組織の根本部分で軋轢が生じるのは無理もないことである。狩猟において苦労して仕留めた1匹の獲物を10人で分配せざるを得なかったとしたら、役割あるいは働きに応じて納得性のある配分をすることは、猟に参加した人間にとって死活問題であっただろう。こうした背景を考えれば、成果主義が欧米に根付くのは自然なこととして理解できる。一方、日本では時代が変わり、高度成長時代やバブルの時代と比べて社員に分配する成果が格段に少なくなって来ているのにもかかわらず、企業で働く多くの社員の意識はいつになっても農耕文化に根ざした企業風土の中へ潜在的にどっぷり浸かっており、目立たないように集団に埋没して皆と同じように振舞い、争いや競争を避ける習慣がいまだに身体に染み付いている。こうした状況に置かれた社員に何ら心の準備がないままに、あるいは他の方策も含めた組織的な受け入れ準備もないままに、いきなり人事制度だけを成果主義に変えるとしたら、いささか乱暴な話と言わざるを得ない。
 しかしながら、こうした状況にあるからと言って成果主義は完全に否定されるべきものではないと思われる。少子高齢化、経済成長の鈍化、国際競争の激化という今後の経済環境を考えれば、企業活動の限られた果実を合理的に分配することで有能な社員のモチベーションを維持することは、これからの企業の存続に不可欠だからである。では、どうしたら成果主義を有効に機能させられるか、さらにはどうしたら企業の組織力を高められるかを考えてみる必要がある。そのためには欧米企業と日本企業の違いをもう少し良く見ておこう。
そもそも、成果主義が狙うのは、有能な社員のモチベーションを維持し組織のパフォーマンスを高めることである。しかし、成果主義だけを導入し、経営者が成果指標を見ながらひたすら社員をぎりぎり絞り上げれば、短期的な企業業績改善はありえるかも知れないが本質的な組織力強化には繋がらない。組織力を強化し企業という組織体を目的に向かって力強く動かすには、@方向性を明確に示す頭脳、すなわち「強いリーダーシップの存在」、A組織を効率的に動かす身体作り、すなわち「要員配置の適正化」、B組織を構成する身体部品を自律的に動かす「組織モチベーション向上」、の3点セットが揃っていることが必要なのだ。言い換えると、組織の@リーダーシップ、Aポートフォリオマネジメント、Bパフォーマンスマネジメントがバランス良く開発されていることが欧米企業の強みなのである。
 このうち、特に多くの日本企業に欠けているのが、Aポートフォリオマネジメントである。ポートフォリオマネジメントとは「要員配置の適正化」であり、本来的には事業戦略を実現するために如何なるスキルセット、スキルレベルを持った人材を各部門に何人配置するかを理論的に算定し、その理想人員配置と現実とのギャップを埋めるために、人材採用、人材教育、配置転換、転進といった施策を継続的に実施する管理手法を言う。さらには、各部門に配置される複数社員をどのような組み合わせで配置することが組織力を高める上で有効かの検討も併せて実施する。環境変化が激しい現代において常に効率的、効果的に事業を推進するには、刻々変化する組織の必要スキルボリュウムに合わせた要員数ならびに要員配置の見直しを適宜実施することが不可欠なのである。場合によっては、雇用調整という従来の考えからすれば痛みを伴う方策も当然必要になってくるのだが、自分の活躍できる場が今の会社になくなってしまっても、社外にチャンスがあるのならば積極的に社外で新天地を見つけようという意識の転換が雇用される側の社員にも求められる。これまでの日本企業においては、まず現在在籍する社員ありきで事業展開を考えてきたため、人がいるから仕事を作るようなおかしな状況が生まれていた。発想を転換し、まずはあるべき要員配置、すなわち今必要な人材はどのようなスペックの人材が何人なのかから出発し、その体制を実現するためには現在の要員配置からどのように人材を異動し、外部から人を採用し、あるいは人または業務そのものを外部に出すことで適正要員配置に近づけるかを考える方向に改めるべきである。場合によっては、派遣やアルバイト、アウトソーシングの活用も必要であろう。痛みを伴う可能性もあるので第一歩がなかなか踏み出せないかもしれないが、こうした発想の転換により真の組織力強化が図られて初めて日本企業の復活が始まるのではないか。

(大矢 哲夫)

[注]「要員配置の適正化」とは、適正人員算定と最適要員配置の両方を意図している。  

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