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コラム





「オンエアバトル」という評価システム

 最近、数年ぶりのお笑いブームらしい。そう言われてみれば、お笑い番組は増えたような気がするし、お笑い番組だけでなくいろんな番組に多くの若手お笑い芸人が出演している。
 このお笑いブームの火付け役となったと言われているのが、毎週土曜日の深夜にNHKで放送されている「オンエアバトル―爆笑編―」という番組である。この番組では、10組の若手お笑い芸人が漫才やコントを会場の審査員の前で披露する。一般視聴者から選ばれたこの審査員100名はその芸を「面白いか面白くないか」で評価し得点を入れる。総得点の上位5組は芸をオンエアしてもらえるが、下位5組の芸はまったく放送されない。題して「史上最もシビアなお笑い番組」なのだそうである。
 私は、この番組がお笑いブームを引き起こした理由が、非常にユニークで且つ巧みな芸人評価・選抜システムだったことにあると考えている。そして、その評価・選抜システムは、人事の評価・選抜システムにもいくつかの示唆を与えるものだと思う。以下に、その芸人評価・選抜システムのポイントを整理したので、自社の人事の評価・選抜システムになんらかのヒントになれば幸である。

 この芸人評価・選抜システムで、第一に特徴的なのは「評価者が適切である」点である。当番組では、若手芸人を評価するのは大物お笑い芸人でもなくタレントでもなくテレビ局の人間でもない。一般視聴者から老若男女問わず選ばれた100人の審査員である。これが非常に適切な評価を可能にしたと言えよう。
 「評価者が誰か」という点でポイントになるのは、@最終顧客が評価者であること、A評価者が多い、B評価者が被評価者と直接利害関係にない、の3点である。
 @お笑いの最終顧客とは、お茶の間の視聴者である。お茶の間の視聴者(の代表)が評価をすることで、適切な評価が可能となり、結果として優れたお笑い芸人が選抜された。大物お笑い芸人やテレビ局の人間もお笑いのことには詳しいだろうが、お笑い芸人の人気を最終的に決めるのは彼らではない。加えて、地位も安定した大物先輩芸人やテレビ局プロデューサーが、世間のお笑いのニーズを完璧に把握していると誰が保証できるだろうか。最終顧客が直に評価をすることで、顧客のニーズに合う実力を持った者が評価されるようになったのである。
 A評価者が100人いるということは、評価者が10人の場合はその時々によって趣味の偏りが出てくるかもしれないが、100人であれば評価の適切さを確保できる数と言ってもいいのではないか。ちなみに、この番組で感心するのは、番組の冒頭で一般視聴者審査員の世代別×性別の構成(10代男X人、20代女Y人など)が毎回きちんと表示されることである。さすがはNHK(?)、お笑いであってもやっぱりマジメなのである。
 B評価者が直接利害関係にないということも特徴である。もし、評価者が一般視聴者ではなくベテラン芸人であったら、そして評価が高いと番組のレギュラーになれるなどインパクトが非常に大きい場合、どのような問題が起き得るだろうか。評価される若手芸人が、ベテラン芸人にたびたび贈り物をしていたら、ベテラン芸人は評価を甘くつけてしまうかもしれない。逆にベテラン芸人の地位を脅かすほどの才能を持った芸人だったら、あえて厳しく評価して脅威の芽を摘もうというベテラン芸人もいるかもしれない。少し大げさかもしれないが、直接利害関係がないからこそ、一般審査員は「面白いか面白くないか」だけで評価することが出来る。

  第二に、「評価に対する報酬」は何だろうか。この番組では、高い評価を受けることによって得られる報酬は、「自分の芸が放送されて日本全国に届けられる」とされている。芸人の世界では、テレビなどで露出を高めることは重要な戦略であり、非常に強いインセンティヴとなる。お金だけがインセンティヴではない。夢と意欲を持つ者にとっては、その世界でキャリアを積み、成長していくチャンスをもらえることが強力なインセンティヴであることを忘れてはならない。

 第三に、「評価に対するフィードバック」がしっかりしている。審査員100人からジャッジペーパーという評価表をもらえるのである。ジャッジペーパーには、「ネタは良かったんだけど喋りがイマイチ・・・」や「その独特な雰囲気が大好きです」などのコメントが書かれている。つまり、最終顧客たる一般視聴者100人の忌憚のない批判、アドバイス、そして温かいエールを受け取ることができるのである。従来、自分達の芸が面白いのか面白くないのかは、会場の笑いの大きさで測っていた(大阪ではヤジも飛ぶ)。だが、「どこがどう面白くないのか」をきちんと説明してくれる人はあまりいなかったのではないだろうか。もちろん、先輩芸人やテレビ局の人間がコメントしたり、アドバイスしたりすることは当然あるだろう。しかし、先述のように、大物先輩芸人やテレビ局プロデューサーが、世間のお笑いのニーズを踏まえた的確なアドバイスが出来るとは限らない。この番組から、多くの若手芸人が育っていることを考えると、最終顧客からのダイレクトなフィードバックが、芸人達の成長を確実にしているのではないかと私は考えている。

 第四に、無名の新人であってもそこそこ名の知れたベテランであっても、同じ基準で「公平に評価」される。自分の芸を5分間ほどで披露して、それに点数がつけられるだけだから、偶然が入り込む余地はほとんどない。テレビ局側の意向も働きづらい。大物芸人がいじってくれるかどうかも関係ない。プロデューサーに気に入られているかどうかも(少なくとも点数には)関係ない。

 第五に、「チャンスの平等性」である。この番組は無名の若手でも挑戦することが出来る。旧来のお笑い番組は、番組名に大物芸人の名前がついていて(例:「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」)、その番組に出演するのはその大物芸人の子分(例:「ココリコ」「山崎邦正」など)であるものが多い。まずは大物芸人に取り入って「派閥」に入れてもらわなければ、幅広い人たちに自分の芸を見てもらえないという問題も起きうるのではないだろうか。逆に言うと、どれほど実力があっても、取り入らなければ実力が認められにくいとも言える。

 以上、五つの視点から「オンエアバトル―爆笑編―」の評価・選抜システムについて整理してみた。それぞれ人事の評価・選抜システムに置き換えて考えてみると、共通点も多いだろうし、同じ「評価システム」にも関わらず大きく違うところも見つかるはずだ。
 本当に優秀な人材が発掘され、育てられ、活躍の場が与えられることで、今回のお笑いブームのように日本の組織が盛り上がることを期待したい。

(宮原 禎一郎)  

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